日弁連の刑事拘禁本部の熱海合宿 ~代用監獄論と死刑廃止論~
8月1日(金)と2日(土)は、日弁連の刑事拘禁本部の熱海合宿へ。
(おかげさまで、忙しいです)。
私は、今年から、大阪弁護士会の刑事弁護委員会から委員として出していただきました。
先日、裁判員裁判を一緒にやらせてもらった金村弁護士といざ熱海へ。
最近は忙しすぎて全くお役に立てていないのですが、人権擁護委員会の第3部会(刑事施設)の関係で、
刑事拘禁本部にもかかわっておられる先生方と同席する機会はこれまでにもありました。
しかし、刑事拘禁本部そのものへ出席するのは初めてです。
感想はというと…、「やっぱり価値観が同じで、なじむわ~」(笑)という感じでした。
特に、処遇のあり方について発表された東京の若手の小竹先生などは、考え方や価値観が私とぴったり一致していて、
驚いてしまいました。
小竹先生の方でも、私のHPを見ていて下さって、「自分が書いているのかと思った」と言って下さいました。
これぞ同士でしょうか?(笑)。
小竹先生のことは、いずれ私のHPでご紹介させていただきたいと考えています。(乞うご期待!)。
小竹先生は、カウンセラーや家族療法士の資格を持っておられるとのことでしたが、情状弁護や更生関係に興味がある人は、
こういう心理学などに興味がある人が多いですね。
この間の近弁連の夏期研修の司会をされた奈良の菅原先生も、カウンセラーの資格を持っていると言っておられました。
私はカウンセリングの資格などは持っていませんが、やはりカウンセラー的な資質を強く持っているようで、
普段はその資質を駆使しながら、弁護活動をしています。
被告人に特別の疾患や障害等がなければ、刑事弁護の中でうまく浄化させていくことができる場合が多いと思います。
(ただし、精神疾患や障害、特殊な心理的要因がある場合は、弁護士が慢心するべきではなく、専門の精神科医や心理士を投入すべきだと考えています)。
私にとって、刑事弁護委員会は、お世話になっている先生方や同じ関心をもつ親しい方ばかりで、非常に馴染む場ではあるのですが、
現在の刑事弁護委員会は、従来の否認事件を中心とする価値観で構成されていて、それが主流ですから、
(障がい者刑事弁護の動きなども出てきてはいますが、あれは情状弁護のごく一部分にすぎません)、
情状弁護を掲げる私にとっては、少し関心や価値観がずれている面もあります。
また、特に、大阪の刑事弁護委員会は、層があついですから、相当上の期の方でないと中央にはいくことができません。
(何とかカレー事件とかの先生が委員ですもんね…。)
これじゃ、私の順番なんか絶対回ってこないし、
そもそもの関心がずれているので、(そのせいで、私は下働きをしないので)、従来の組織の中で、情状弁護の価値観を発展させていくのは難しい、
それなら、いっそ新しく刑事弁護の第2グループを作ることはできないか…と、ずいぶん昔に、私は考えていました。
本来、否認事件は一部否認をかき集めてもせいぜい10%程度のはずで、あとの事件は、公訴事実に争いのない情状事件のはずなのです。(争いたくても、争いようのないこの辛さといったら…)。
しかし、選挙権と同じで、本来、すべての被告人は同じ価値がある人間なのだから、
情状弁護は、本来、刑事弁護の90%を占める広大な大地のはずだというのが私の考えでした。
しかし、現在の刑事弁護は、「否認事件こそ華」「情状弁護では大したことはできない」とされていて、(その証拠に、法廷弁護技術研修などの題材は全て否認事件です。)、
10%程度のはずの否認事件の世界が、あたかも刑事弁護の世界の90%くらいを占めているかのような扱いを受けていて、
情状弁護の大地は、荒野のまま、打ち捨てられているように、私は感じていました。
この90%の荒れ地は大きなフロンティアだ、ここを耕せば、いずれ広大な黄金の稲穂が輝く大地になる…。
いずれ必ず変えてみせる…。
ずいぶん昔に、私はそんなことを考えていたのですが、目の前にやってくる事件と日々の忙しさ(最近はだいぶ乗り越えましたが、苦しい日々もありました)に、そんなことはすっかり忘れていたのでした。
しかし、今回、刑事拘禁本部に出していただいて、合宿に参加し、そこに非常に近い価値観の弁護士が何人もいるのを見て、
昔考えていたけれど、厳しい現実の前に忘れてしまっていたことを思い出しました。
各地に散っていますが、同じ考えを持っている弁護士は確実にいて、皆が連携すれば、
刑事弁護をその後の処遇と連動させて考えることのできる刑事弁護の第2グループを作ることができるかもしれない…。
そんな気がした熱海合宿でした。
内容的にも面白く、勉強になりました。
国連から日本へ強く勧告された事項は、①代用監獄廃止と②死刑廃止なのだそうです。
袴田事件は、世界で大きな注目を浴びているとのことでした。
世界から見ると、日本は先進国であるにもかかわらず、刑事司法と処遇の分野だけは中世なみである、
それでも、処遇については、日本国内で少しずつでも改善の見込みはあるが、
代用監獄と死刑廃止の問題だけは、何年も前から何度勧告しても改められず、
もはや日本だけの力では対応できない事項であると世界の目にはうつっているのだそうです。
確かに、袴田事件はともかく、①も②も日本ではほとんど取り上げられていません。
特に、①の代用監獄廃止論なんて、我々弁護士も完全に忘れていて、夕方や夜でも接見にいける警察の方が便利だと思ってしまっていますが、外国からみれば、48時間を超えて警察署に被疑者を置いておくことは、到底考えられないことだそうです。
これに対しては、会場から、今は女子を中心に男子でも大規模な留置施設が各地で建設されており、
警察本部のワンフロアがすべて留置だったりする大規模施設が増えている。
であれば、この施設やフロアごと法務省管轄へ移してしまえば、新たな施設を建設しなくても代用監獄を廃止する方向へ移行できるのではないかといった意見が出ていました。
また否認して、黙秘権行使をしている事案などは、留置においていても仕方がないのだから、
さっさと拘置所へ移送しろと求めた事例の報告などもされていました。(なるほどなーと思ってしまいました)。
また、死刑廃止についても、刑事弁護の世界では、(問題として取り上げるために、あえてそうしておられるのですが)、絞首刑の残虐性を問題にしていますが、
刑事拘禁の世界では、絞首刑だろうが、ギロチンだろうが、ガスだろうが、電気椅子だろうが、薬殺だろうが、
すべて残虐なことに変わりはなく、死刑は人権を侵害するから許されないという単純な考え方をしていて、私にはこちらの方が圧倒的に納得できました。
フランスで死刑廃止にかかわったバダンテール弁護士の「そして、死刑は廃止された」という本を以前に読んだのですが、
その中で引用されていたユゴーの言葉、確か、「死刑廃止は、単純で、純粋で、決定的でなければならない」
と言っていたと思いますが…、を、思い出していました。
なんとなく散漫な感想になってしまいましたが、刑事拘禁本部の熱海合宿は、私にとって、実り多き合宿でした。
これからも何とか出席し続けて、ここにおられる同じ考え方の先生方と一緒に(特に、若手で同じ価値観の方を見つけたので)、新しい試みを目指していければと思います。