一部執行猶予制度の導入について

平成28年6月から、「刑の一部執行猶予」の制度が導入されました。

 

一部執行猶予制度は、もともとは、2008年頃にピークを迎えていた、刑務所の「過剰収容」対策として出てきたものですが、

平成25年6月、「刑法等の一部を改正する法律」と「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」が成立し、平成28年6月1日から施行されました。

 

この制度は、受刑が初めての人であれば、罪名を問わず、懲役3年以下の刑を言い渡される場合に適用できるのですが、

薬物犯については、2回目以降の受刑になる場合であっても適用できることになっています。

 

薬物犯の高い再犯率を下げていくことを狙ったもので、実際の適用事例も大半は薬物犯です。

(従来の量刑で、全部執行猶予だったものは変わらず全部猶予になるとされているので、

薬物以外の他の罪名で、一部執行猶予に適した事案は少ないでしょう)。

 

一部執行猶予判決がつく場合は、例えば、具体的に例を挙げて考えると、

「懲役2年に処する。その刑の一部である懲役4月の刑の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中、被告人を保護観察に付する」、という判決があったとすると、

2年間の懲役刑のうち、受刑するのは1年8か月でよく、(刑務所内での受刑態度がよければ、従来とおり、仮釈放も付きます)、残りの4か月は、刑の執行を2年間猶予してもらえるかわりに、その間、保護観察が付されて、保護観察所で薬物離脱プログラムを受けたり、薬物検査を受けたり、保護司のところへ面会に行ったりしないといけないというものです。

 

懲役2年くらいまでは、執行猶予期間は4月、保護観察期間は2年間くらいが多く、

懲役2年6月から懲役3年くらいになると、執行猶予期間は6月、保護観察期間は3年間くらいになることが多いようです。

 

この一部執行猶予制度の制度趣旨は、施設内処遇(受刑)と社会内処遇(保護観察付執行猶予)をうまく連携させて、再犯を防止することです。

今までも、出所時に、仮釈放になれば、仮釈放期間中は保護観察がついていたのですが、仮釈放ではあまり長期間は確保できないため(1,2か月しかないとか。優良受刑者の場合で最大8か月くらいでしょうか…)、受刑を終えてきた後の社会内での監督やサポートが十分できませんでした。

 

そこで、刑の一部の執行を猶予する代わりに、2年~3年程度の比較的長期にわたる保護観察を付けて、社会内処遇の期間を長くして、薬物離脱プログラムを受けさせるなどして、再犯を防ぐことにしたのです。

 

保護観察所では、最初の3か月のうちに、5回の薬物離脱プログラムが実施され、あとは、月1回の維持プログラム、薬物検査などが実施されます。もちろん、従来どおり、保護観察官や保護司による面談があります。

 

ただ、この一部執行猶予制度は、実刑部分と執行猶予部分の配分や、保護観察に付される期間の割合等によっては、現在の刑罰が重罰化され、保安処分と異ならないことになりかねないという危険性もあります。

従来よりも執行猶予の取消しも簡単にできることになっていますから、刑期が短くなるからといって、安易に飛びつくのは危険なのです。

 

このように、実施前は、その危険性を強く指摘する声の上がっていた一部執行猶予制度ですが、いざ実施されてみると、被告人は、刑の一部執行猶予の適用を望むケースが多いという印象を受けます。

 

被告人としては、やはり、1日でも早く社会に戻って、社会復帰したいし、

逮捕されて、裁判になっているときには、「もう二度と薬物なんか使用したくない」「絶対にやめる」と、真剣に思っているからだと思われます。

保護観察についても、薬物検査などを受けられることで、自分を抑止できると、肯定的にとらえているケースが多いと感じられます。

しかし、裁判所は、必ずしも一部執行猶予判決を出そうとはしておらず、抑制的に適用しようと考えているようです。

 

一部執行猶予では、長期間の保護観察がつくため、出所後の確実な帰住先があることが大前提になります。

ご家族の協力が必要不可欠といえるでしょう。

加えて、本人の薬物依存症から回復しようとする意思や治療体制が整っていることも重要になってくると思われます。

刑事裁判の間から、自分がどうして薬物に依存してきたのか、依存原因を知って、それを薬物以外の方法で解決する方法を身につけたり、

出所後の薬物を使わない生活を具体的にイメージして、必要な治療は刑事裁判中に受けておき、出所後はそれを維持できる体制を整えておく必要があります。

それらを実行した上で、一部執行猶予制度を活用すれば、回復のための有意義な手段として活用できるのではないかと思います。