近弁連夏期研修で事例報告をしました ~テーマは情状弁護でした~

7月31日は、毎夏の恒例の近畿弁護士連合会の夏期研修。

2日目午後の部のテーマは「情状弁護」でした。

 

 

 

 

 

 

前半の基調講演は、立命館大学大学院、応用人間科学研究科教授の中村正先生。

テーマは、「情状弁護のその先に ―加害者臨床の実践から 法と感情・心理という新しい領域に挑む」でした。

DV加害者の男性に対する脱暴力の取り組みを教えていただきました。

 

とにかく時間が限られていて、45分しかなく、パワーポイントもはしょらねばならず、
全て理解したとは到底言えないのですが、加害者臨床での視点を学べたことは大収穫でした。

 

後半は、事例報告。

成城大学の指宿信教授をコメンテーターに、各弁護士会から1名ずつ、

①再度の執行猶予が取れた事案、

②家族関係に問題があるケース、

③本人へのケアが必要なケースという新しい視点のもとで、発表を行いました。

指宿先生は、治療的司法の観点から、各事例にコメントして下さいました。

 

私も③の事例の1つとして、覚せい剤自己使用・所持事案で再度の執行猶予を得た事例を報告させていただきました。

 

ここで共通認識が得られたのは、

これからの情状弁護は、科学的なものでなければならないということ。

 

「犯罪はすべて個人の意思決定により行われている」という従来の考え方は、「幻想」でしなかく、

実際は、加害者個人の意識化された意思以外のさまざまな要因が重なって起こっています。

これからの情状弁護(その後の矯正処遇も含めて)は、

犯罪が起こった原因を、個人の意思責任の問題だけで片付けてしまうのではなく、

医学、心理学、福祉、社会学などの科学的観点から分析し、明らかにしていくものでなければならないのではないでしょうか。

 

そして、「犯罪」という悲劇が再び繰り返されることを防ぎ、

①加害者が人間として幸福に生きるため、

②二度と同じ思いをする被害者を出さないため、

③社会全体の平穏と安定のため、

その原因を除去していくように努め、悲劇の連鎖に終止符を打つ(つまり、真に問題を解決する)ことを目指すべきではないかと考えています。

 

(従来は、②を当該被害を受けた特定の被害者だけに限定してとらえたうえで、

①と②③が対立するものとしてとらえられているように思いますが、

もっと大きな視点で見れば、①②③は全てつながっていると思います)。

 

現在では、裁判員裁判なども厳罰化の方向へ流れている気がしますが、

刑罰で「苦痛」だけを課しても、けっして問題解決にはつながりません。

苦しみは、否定されたという悲しみや怒りの感情につながり、悲しみや怒りの感情は、やがて恨みや憎しみの感情へとつながりかねません。

 

被告人が犯罪を犯すにはそれなりの理由や原因がある。

その時点では、それがその人の精一杯の選択だったです。

 

犯罪を犯したことは悪ですから、一定の責任は果たさせる必要はありますが、

「罰」という苦しみだけを与えるのではなく、同時に再生できるという「希望」とそのための「手段」を与えるべきです。

 

今度は違う選択ができるように、その人を支援してやらねばなりません。

犯罪という苦しみを生む悪のエネルギーに対して、同じ苦しみのエネルギーでやり返してはいけないのです。

(被害者の被害を思うと、ついついやり返したくなりますし、それが正当なことのように思えてしまいますが、

それを抑えて、より高い賢明な選択をするのが成熟した社会の知恵だと思います。

被害者救済には別の方法や手段があるはずなのです)。

 

 

パンドラの箱に最後に残ったのは「希望」だといいます。

人間は希望があれば、辛い状況でもがんばれる。

「希望」を具体的にしたものが、犯罪原因を科学的に分析した結果出される「再生への支援」ではないでしょうか。

 

今回の夏期研修は、内容もさることながら、中村先生、指宿先生、各弁護士会からこられた事例報告者の先生方とお知り合いになれたのが何よりの収穫でした。

 

これを機に先生方と交流を深め、加害者臨床や治療的司法の概念を勉強していきたいと思います。

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