今年の刑務所見学① ~笠松刑務所見学記~ 

今年も行ってきました。

大阪弁護士会人権擁護委員会3部会での刑務所見学。

今年は、中部地方の女子刑務所である笠松刑務所と、精神障がい者を対象とする岡崎医療刑務所です。

(近畿の女子刑務所は、和歌山刑務所と加古川刑務所の女区ですね)。

 

 

 

今日は、笠松刑務所見学記を掲載します。

日弁連の3部会で、今年の2月に岐阜刑務所を訪問したこともあり、その近くの女子刑務所である笠松刑務所を訪問させていただこうという話になりました。

 

名古屋から名鉄に乗り換え、30分ほどで西笠松駅へ。

そこから歩いて10分くらいのところに笠松刑務所はありました。

 

 

女子刑務所なので、雰囲気は柔らかいです。

入口付近に、美容院がありました。

見学の際に料金表を見せてもらうと、カットは800円、パーマ&ブローは1600円だとか。(安い!)

私も毛先を3センチほどカットしてもらおうと思ったのですが、案内して下さった刑務官の方との意見交換に熱が入り、
終了時には4時を回ってしまったので、あきらめました。

 

男子刑務所は、平成18年ころをピークに減少して、過剰収容はなくなっていますが、

女子はいまだ、極端に増える様相もないが、減る様相もないまま、過剰収容が続いているとのことでした。

笠松も、訪問当時、95%の収容率で、冬ころはもっと多かったそうです。

 

罪名は、窃盗(29%)と覚せい剤(41%)で7割を占めますが、次に殺人(9%)が来るのが女子の特徴です。

男性に比べると、夫や交際相手など、身内殺しが多いのが特徴で、子殺しも多いとのことでした。

 

若い世代は、70%くらいが覚せい剤、60代以上は、80%以上が窃盗です。

刑務所も高齢化が進んでおり、現在では、1/4(24%)が60代以上とのことでした。

 

お年寄りが増えると、皆についていけないため、作業効率が落ちる、

簡単な作業をさせているけれど、去年できたことが今年はできないこともある、

病気などで薬代がかかる、

身元引受けが難しいなどの問題が出てくるそうです。

 

出所時に、働くところもなければ、家もないケースもあり、福祉や病院、養護施設と連携して、

何とか放り出すことがないように努力しているが、

「かまわないでくれ。ほっておいてくれ。」と、こちらの働きかけに乗らない人もいて、そういうケースはとても困ると話しておられました。

笠松の仮釈放率は、75%くらいで(刑の執行率は80%くらい)、地方更生保護委員会の強力も得て、積極的に仮釈放を行っているとのことでした。

 

職業訓練は9種類、介護や調理、コールセンター、美容やネイリストもあって、刑務所に美容室が併設されています。

免許・資格の取れるものは、すべて国家資格をとらせているとのことでした。

 

政治家の野田聖子さんが寄贈したという「清きまなざし」という陽と月の母子像もありました。

 

共同室の定員は6名ですが、居室のドアは引き戸で、鍵がなく、フロアは出入り自由。

男子刑務所なら居室内にあるトイレや洗面所が、廊下の外にあるのが特徴的でした。

用もないのに部屋を出てはいけないのですが、トイレや洗面などで、フロアの廊下にはいつでも出られ、夜はそのフロアを女性刑務官が1人で警備しているそうです。

ただ、新しい刑務所などでは、保安や刑務官の心理面の負担から、居室に鍵があることが多いそうです。

(部屋は、トイレや洗面スペースがないのと、たたみが思ったより小さいため、6名には少し狭いな…と感じました)。

男性のように、殴り合いはしないものの、異なる環境から集まった人が、狭い居室内で共同生活をするため、

人間関係は難しいようでした。

 

 

女子の処遇で難しい事例の典型例は、摂食障害のケースと認知症のケースで、

摂食障害は、食べてもすぐ吐いてしまうため、違う場所で食事をさせて、30分くらい置いてから戻す、

ひどくなると点滴などの対応はしているものの、

精神疾患のため、なかなか治らず、根本的な対応が難しいと嘆いておられました。

 

また、認知症などのケースも扱いが難しく、身体の衰えには介添えをつけている、

閉じこもってしまうのが一番よくないため、出来るだけ集団の中で生活させているとのことでした。

寝かせると、寝たきりになってしまうそうです。

「刑罰を受けている」ことの認識がないケースもあり、刑罰の執行の意味があるのだろうかと感じることもあるようでした。

 

女子は、犯罪傾向や刑の長短で、男子のように「分類」がないのが特徴で、個性に応じた対応や指導はするものの、

「収容中はすべて公平」だそうです。

 

施設見学の後の意見交換で、興味深かったのは、刑務官募集の難しさと、特に、女子刑務官の定着の難しさでした。

警察や自衛隊は、リクルートにもお金をかけて、ポスターを作ったり、

部署ごとの制服を披露したりして、人目をひいて、スカウトしているが、

刑務所は予算がつかず、そんなことはなかなか出来ない。

また、試験日も警察などと同じ日で、これでは人が集まらないので、違う日にしてほしいと話しておられました。

 

また、女性刑務官の離職率の高さについても、嘆いておられました。

自分の意思で、働き続ける気がなく辞めてしまうときはどうしようもないけれど、

女性の場合、例えば、結婚、出産や子育て、

親が倒れて、介護が必要になって、男兄弟はいるけれど、女子に役目が回ってくるなどでやめなければならないことも多く、

そういう人を何とか制度を使って救いたいのだが、男性の育児休暇など、現実にとるのは難しい中で、

なかなか離職を止められないのだそうです。

 

また、誰かが育児休暇を取ったりすると、その分、全体の負担率が増えて、仕事がきつくなり、悪循環に陥るため、

もっと人事院の制約なども緩めてほしいと話しておられました。    

 

 

また、刑務官のリクルートの話から発展したかと思いますが、刑務所の役割については、「社会を二度守る」という話が出ました。

(岡崎医療刑務所でも同じ話が出ていました。)

最近は、改善・更生ばかりを強調しすぎたが、これは失敗だった、

まずは、①保安、管理、統率がなされてから、

次に、②改善・更生がなされるのだという点を、強調しておられました。

 

その点がきちんと社会に伝わっていないと、改善・更生を思い描いて入った新入刑務官が、「自分のやりたい仕事ではなかった」と言って、やめてしまうのだそうです。

 

確かに、安全や保安すら保障されていない中では、改善・更生への取り組みは難しいでしょう。

日本では、アメリカなどの外国のような危険がなく、保安が行き届いているからこそ、次の課題である、「改善・更生」に取り組めるのかもしれません。

「保安」は、刑務官の日々の努力の上に成り立っています。

例えば、A級とB級では、受刑者と向き合うにあたって要求されるスキルのレベルは異なり、

スキルの向上や人材育成は、先輩による指導と経験によって培われていくものだという話をお聞きしました。

 

となると、この少子高齢化の時代に、刑務官の確保と人材育成は、今から取り組んでおかねばならない重要課題なのかもしれません。

(刑務所は、社会の中に絶対になくてはならない必要施設ですから…)。

 

案内を担当して下さった方は、とても熱心に率直に、我々の質問に答えて下さいました。

 

翌日訪問した岡崎医療刑務所でもそうだったのですが、

「刑務所」という施設がどんなことをしているのか、どんな場所なのか、

もっと社会の人に見てもらい、知ってもらおう、知ってもらわねばならないという意気込みや熱意のようなものを感じました。

 

日差しの強い残暑の中、親切に案内して下さり、とても熱心に質問に応えて下さった笠松刑務所の方に感謝いたします。

 

見学を終了したときは、もう4時半くらいになっていました。

私達一行は、西浦駅から、蒲郡の少し先の西浦温泉へ。

温泉で休憩して、翌日の岡崎刑務所へと備えたのでありました。

 

  

 

 

   

   

 

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