刑務所と社会をつなぐ社会共同組合 Pausa Cafeの挑戦 @龍谷大学

昨日、龍谷大学で行われた、「人と社会を結ぶソーシャルファーム ~罪を犯した人を排除しないイタリアの挑戦~」という浜井浩一教授が主催された講演会に参加してきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

メインの講演は、イタリアから来られた社会共同組合の理事であるアンドレア・ベルトラさんの講演、

「マイナスの条件をプラスに変え、刑務所と社会をつなぐ社会共同組合 “Pausa Cafe” の挑戦」です。

 

 

 

アンドレアさんは、もともとビール職人で、ヨーロッパのビール文化の母体であるベルギーへ修行に行かれ、トラピスト修道会を含む2つの修道会でビールの作り方を学ばれた方だそうです。

刑務所で社会共同組合の仕事をされるようになってからは、人間的、人道主義的アプローチも必要だと考え、カウンセリングの勉強もされているとのことでした。

 

Pauza Cafeは、もともとは、スローフード運動を背景に、グァテマラのコーヒー産業を守り、女性や子ども達が搾取されていた労働環境を変えて、コーヒー農家のノーマルな生活条件を守るために、2004年に設立されたものだそうです。

そして、①倫理的に公正な方法で(社会的連帯)、②市場で十分通用するだけの高品質の産物を作ることをモットーとして、活動されてきました。

それをいかにして流通に乗せるかという観点から、二人の設立者が、トリノ刑務所長に話を持ちかけたことで、今の活動が始まったそうです。

 

当時は、本当にそんなことができるのか?と思われたそうですが、とにかく1年やってみることになって成功し、今ではコーヒー以外にも、多くのプロジェクトが取り組まれているとのことでした。

アンドレアさんは、2007年から、新たなビール作りの事業の責任者として、社会共同組合に参加されたとのことです。

 

 

アンドレアさんによると、刑務所における「労働」は、社会と刑務所が相互に開き、統合するために、非常に重要である。

「労働」の肝心な点は、働く技術ということではなく、人間的な点、すなわち、人と人との信頼関係を労働を通じて築くことにある。

刑務所の中にいる人達は、自分に対する信頼や外界に対する信頼を失っている人達だから、受刑者達が労働を通じて、自己表現する権利を保障する。

工場の中で労働するだけで社会復帰するというわけではなく、大切なのは、人間的な信頼関係を築いていけるような方向へ向かって進んでいくということだ。

受刑者を面接するにあたっては、その受刑者がどんな犯罪を犯したか、どんな刑罰を課されているかは、全く問題にしない。

それは、既に、どこか別の場所で処理されていることだ。

自分たちは、この人とどんなふうに仕事をしていくかだけを考えて、①動機、②自分がやってしまったことへの意識、③適性などの一定の条件を満たす人を選ぶということでした。

 

その結果、社会共同組合で働く受刑者は、ほとんどが殺人犯になるそうです。

殺人は、何か極限的な状況に追い詰めれた中で起こることが多く、薬物等の常習的な犯罪者とはメンタリティーが異なるからだろうとのことでした。

 

一つの社会共同組合の規模は小さく、アンドレアさんの工場(ビール工場)では4名が働いているそうです。(受刑者全体は1200名とのこと)。

自分たちが重視しているのは、量ではなく、質であり、生産物だけではなく、人間関係や職場環境も含めて、質を重視しているとのことでした。

 

この受刑者達は、外泊許可を利用したりして、社会内でビールの展示会などがあるときは、そこへ出かけて、説明や販売を行ったりするそうです。

また、刑務所内にある製造設備は最新の素晴らしいもので、それは、その他のコーヒー工場やパン工場でも同じでした。

 

社会内共同組合の事業については、完全な民間団体によるもので、補助金が出るわけではありませんが、税金と社会保障費の点で優遇措置があるそうです。

 

 

成功の鍵は、一時的な流行を追うのではなく、地域に存在するニーズを調査して、把握し、それにマッチした産業を行うこととのことでした。

例えば、社会共同組合のパン工場で作るパンは、伝統的なパンの製法を徹底的に研究し、特別の酵母菌を使って丁寧に焼き上げ、窯はイタリア有数の巨大な薪釜で焼き上げるという具合です。

コーヒーも非常に高品質のものを作っており、ビールもかなり高品質の特殊なビールを作っておられるようでした。

買い手側も、それが刑務所で作られたことを特別意識するわけではないようで、刑務所で生産された物が普通に食卓にあがることに意味があるようでした。

 

会場では、休憩時間にビールとコーヒーの試飲もありました。

食音痴の私は、うまく表現できないのですが、コーヒーもビールも非常に強いコクというか、味のあるものだったように思います。

 

また、当日の会場は、100名以上の方々が参加されていたようです。

参加者の中に、「あのお兄さん、どこかで見たことがある人なんだけど、誰だったっけ…??」と思う方が…。

よくよく思い出してみると、なんと、少年鑑別所の職員の方でした。

彼とは、審判直前の少年の作文の宅下げの方法をめぐって、窓口でケンカしたこともあったのですが、

「土曜日をつぶして、この場に参加しているということは、少年の更生のための職場や仕事のことを真剣に考えているということよね…。」と、見直すことしきり。

人を見かけで判断して(鑑別所では手続きがあって、とにかく形式的かつ画一的な処理が重視されるのですが、付添人には中での処理手続きがいまいちわからない上に、少年が中学生以下のような子どものときは、どうしても、うまく手続きができないときがあるのです。)、短気を起こして怒ってはいけないと、反省した次第でした。

(ちょっと本筋から離れてしまいましたが…)。

 

アンドレアさんや、浜井教授は、このような方法を日本にも導入できないかと考えておられるようです。

今すぐ変革できるわけではないでしょうが、将来は、必ず、受刑者の仕事や社会復帰を考えるヒントになるだろうな…と感じた講演会でした。

 

PS:アンドレアさんによると、イタリアでも、刑務所内では何をするにも、行政側の許可がいるそうで、しかも、それがとてもノロノロしていて、複雑怪奇なシステムになっているとのことでした。

今回のこの講演にも、許可を取ってこられたそうです。

 

そのあたりは日本と変わらないようでしたが、アンドレアさんは、「もう慣れた」と言って、笑っておられました。

こういう形式性は、世界どこでも、覚悟しないといけないようですね。

 

 

 

 

 

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