南高愛隣会訪問記 ~2013年2月16日~

今年2月16日に、日弁連人権擁護委員会から、長崎県の南高愛隣会を訪問させていただきました。

人権擁護委員たちの間でも、「行ってよかった!」「素晴らしかった!」と感動の声が上がったのですが、そのころは翌週に裁判員裁判を控え、忙しすぎて、ブログにアップできませんでした。

今さらながらで恐縮ですが、あらためて、ご紹介させていただきます。

 

長崎刑務所訪問の翌日、よく晴れた土曜日に、バスで諫早から雲仙へと移動して、今話題の南高愛隣会を訪問させていただきました。

(長崎新聞に連載された記事をまとめた「居場所を探して ~累犯障害者たち~」(長崎新聞社)が話題になっています)。

 

アジサイという名の施設で、理事長田島良明氏から、南高愛隣会における障がい者福祉の発展の経緯、

そして、今話題の「長崎モデル」「新長崎モデル」という刑事手続きにおける取り組みをお聞きした後、いざ施設見学へ。

 

※ 長崎モデル」とは:軽微な窃盗等を繰り返す知的障がい者に対して、その障害の有無や犯罪への影響などを福祉の専門家らで構成する判定委員会で判定し、刑務所と福祉施設のどちらがふさわしいか等を議論して、意見書を作成し、裁判所に証拠として提出することで、再度の執行猶予等の判決を得て、福祉へとつないでいく活動のこと。

※ 新長崎モデルとは:長崎モデルの発展型で、警察・検察による捜査段階から福祉の専門家が関与して、審査会で上記のような判定をして意見を述べることで、知的障害を有する人を不起訴処分とし、福祉へとつなげていく取組みのこと。
最高検も巻き込む形で展開されていることが大きな特徴。

刑務所の出所時に福祉へつなげばいいというのではなく、そもそも刑事手続きに乗ってしまう前に、刑事司法ではなく、障がい者福祉へとつないでいくのが特徴である。

「出口から、入口へ」という福祉支援の動きを示す画期的な取り組み。

 

まずは、アジサイ1階の調理場の見学。

ここでは、障がい者の方達が働き、多くのグループホームの食事を作っておられるそうです。

グループホーム、ケアホームでは、お世話をする方が、ともすると食事係のようになって、一日中、食事の用意に追われかねません。

かといって、本人たちに食事をまかせてしまうと、栄養が偏ってしまいます。

そこで、ちゃんと栄養バランスのとれた食事(お弁当)をここで作って、各所に配膳しているのだとか。

かつ、障がい者の方達に安定した職場を提供しています。

ここで働く皆さんは、聞いても教えてくれないくらい、貯金を持っておられるということでした。

 

 

ここから、バスで移動して、点在するグループホームやケアホームへ。

海が一望できる丘になっています。

 

 

 

 

 

 

 

平成14年に、田島理事長が障がい者入所施設を解体することを提言してからは、数多くのグループホーム、ケアホームで、2名から4名程度の人達が点在して暮らしています。

理念は、「小規模で普通の暮らし」を。

雰囲気は、下の写真ような感じです。

 

建物の真ん中に廊下があって、その両側に各自の個室があるのです。

(注:夕日が丘住宅の横にある写真は、緑が丘住宅の中の写真です。こういう造りではないホームもあります。)

各個室は、それぞれの個性で部屋が飾られています。

お相撲さんが好きで大きなポスターが張ってある人、クマやぬいぐるみのお人形さんが並ぶ人…。

 

田島さんの説明によると、何でも画一的にして個性を認めない刑務所は、障がい者にとっては、あんなところに入れたら、状態が悪くなるに決まっているじゃないかという最悪の環境だそうです。

また、各自のトイレがあることにもこだわっておられました。

(食事、睡眠、排せつの確保はとても大切だということでした)。

現在の刑務所とは真逆の、各自の個性を重視する生活のあり方は、将来の更生保護のあり方を考えるヒントになりそうな気がしました。

 

 

また、かっては大型施設で今は空になったところを、トレーニングセンターあいりんや、更生保護法人「雲仙・虹」として活用しておられます。

雰囲気はこんな感じです。

 

 

 

 

施設訪問のあとは、お昼を食べながら、35年前にこの地に障がい者福祉施設を作ろうとした際のご苦労や、

当初は嫌って、工事に必要な水さえくれなかった地域の方たちが、次第に障がい者を理解してくれるようになった経緯、

今後の「寄り添い弁護士」構想などを話して下さいました。

 

田島さんの頭の中は、検察庁をも巻き込んだ新長崎モデルからさらに進んで、

刑事弁護の判決後も、弁護人が知的障がい者に寄り添い、更生を支援する「寄り添い弁護士」構想へと進んでおられるようです。

 

その前日、長崎県弁護士会の人権委員会の先生方とも懇親会の場をもったのですが、かなり謙遜されつつ、

「自分たちは、南高愛隣会が提案してきたことをやってきただけだ。

南高愛隣会のすごいところは、弁護士がポロっと「こうだといいんですけどね…」と言ったことを、次回までに本当に全部やってしまうところだ。」と言っておられました。

(例えば、累犯の事例で、保釈金があって、保釈できればいいんですけどね…と言うと、南高愛隣会が本当に保釈保証金を用意してきて、保釈され、その後、執行猶予になったり…といったことのようです。)

 

35年前は、まるで岸和田拘置所の一般面会室横についているようなトイレが1つついているだけの、小さな小さな四畳半の部屋から出発された田島さんですが、

周囲の反対の中を、ひたすら実践を繰り返してこられた結果が、今のこの巨大で幸福な集合体を作りあげていることを実感できたご訪問でした。

 

 

 

 

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