研修会@京都「情状弁護の質的転換を目指してー更生支援型弁護を学ぶ―」

沖縄ガーデン訪問と前後するのですが、

沖縄行きの前日である11月18日(金)、

私は、京都弁護士会館地下1階で開かれた日弁連法務研究財団主催の研修会

「情状弁護の質的転換を目指して ―被疑者更生支援型弁護を学ぶ―」に出席していました。                

 

 

 

従来の刑事弁護にはなかった新しい形の情状弁護のあり方は、名付けて、

「治療的司法」、「更生支援型弁護」、「問題解決型刑事司法」とでもいいましょうか。

情状に関する弁護活動のあり方は、「質的転換」の時を迎えています。

 

研修会では、若手弁護士らによって取り組まれている新しい弁護活動が報告されました。

私自身にとっても、自分が取り組む治療的司法なるものがどんなもので、どのような方向性を目指すべきなのか、改めて頭の中が整理される良い機会でした。

 

 

従来の刑事司法では、犯罪は、基本的に、個人の身勝手な意思決定によって引き起こされた行為ととらえており、行為責任主義(だけ)で判断して、刑罰で処罰しようとします。

被疑者・被告人がなぜそんな犯罪行為に出るのかについては、深く考えようとせず、非常に簡単で表面的な「動機」でまとめて、流してしまいます。

心理学や医学、ときには、社会学の知識などに基づいて、その原因を深く検討することはありませんでした。

自分たちの仕事は、判決を出すところまでで、その判決を受けた後、彼らの人生がどんなものになるのかについては、法曹関係者は全くといっていいほど考えてこなかったのです。

 

その結果、刑罰を科しても、根本的な問題解決にはならず、特に嗜癖型の犯罪などでは、いつまでたっても再犯が繰り返される事態が続いてきたのです。

 

しかし、「治療的司法」は、違います。

犯罪や逸脱行動の奥底に秘められた被疑者・被告人の人間的なニーズに着目していきます。

 

人間的ニーズというのは、例えば、社会からの孤立や孤独感、自尊心の低さ(これ重要です!)、漠然とした不安感や疎外感といった精神的な苦痛、虐待やいじめなども含めた被害体験の影響など…を指します。

 

犯罪は、この「人間的ニーズ」を何とかして癒そうとする「自己治癒行為」なのです。

しかし、既に犯罪という問題行動に入っている中で、一人で人間的ニーズを満たして、回復することは困難です。

周囲が問題を共有し、社会的に解決を図っていく必要があります。

そこで、治療的司法では、医療、福祉、心理学、社会学など他業種の専門家らの力を借りながら、人間的ニーズを社会的に解決していくことによって、「犯罪」の根本的な解決を目指すわけです。

被疑者・被告人が、人間的な尊厳を回復し、社会の中で安定して生きられることで、

結果として再犯を防止されていき、

それが、安心・安全な社会へとつながって、社会全体の幸福度も増していくのです。

 

現在の刑事司法の世界では、まだ伝統的な無罪弁護を中心とする価値観が支配的で、治療的司法は、若手を中心とした「新たな動き」に過ぎませんが、

私は、そう遠くない将来、必ずこの治療的司法の考え方が主流になると考えています。

 

その比率は、無罪弁護:治療的司法 = 5:95 程度まで、主従が逆転していくだろうと、私は考えています。

なぜなら、それが被告人のニーズだからです。

選挙権と同じく、人間の価値は全ての人で同じである。

一人一票の原則と同様に考えれば、この比率になるはずです。

 

 

では、研修の中身へ。

第一部の基調講演では、クレプトマニア治療の第一人者である赤城高原ホスピタル院長竹村道夫医師が講師でした。

竹村医師の治療事例数は、どんどん更新されていますが、今では1520例に及ぶそうです。

 

竹村医師は、講演の中で、ご自身と患者とのやり取りの録音音声を10例近く流しておられました。

患者自身の声こそが、聴衆の心に最も響くからでしょう。

 

その中に、私のクライアントである藤乃さん(HPに治療日記を掲載)の声もありました。

音声では、竹村医師が、藤乃さんに、「あなたは実刑で刑務所に行くことが確実なのに、どうしてそんなに笑っていられるのですか?」と質問されていました。

この質問に対して、藤乃さんは、「私が絶望したのは、前回、刑務所に行って何も変わらなかったことです。私は刑務所に行くことは怖くありません。私が怖いのは、それでも、まだ再犯してしまうことなのです。」と答えていました。

懐かしい声を聴いて、藤乃さんを思い出し、少し胸が熱くなりましたね。

 

 

第二部のシンポジウムでは、まず、情状弁護活動の実践例の報告として、さまざまな工夫を重ねながら治療的司法に取り組む3人の若手弁護士からの報告がありました。(コーディネーターは、東京弁護士会の山田恵太弁護士でした)。

 

 

 

クレプトマニアの事案を専門的に扱う埼玉弁護士会の林大吾弁護士は、「普段から考えていたことですけど、今、思いつきました。」(会場:笑)とおっしゃりながら、

①常識を捨てること。(従来の刑事裁判では、必ず実刑になっていた事案でも、罰金刑を獲得できた事例があるということ)、

②最低限の医学的知識をもつこと、

③最後に、信念をもって、弁護活動にあたること、

が重要だと語っておられました。

確かに…。納得です。

 

 

今回、沖縄ガーデン見学にご一緒した第二東京弁護士会の中田雅久弁護士からは、「福祉と連携した情状弁護」と題して、東京TSネットと連携した「更生支援コーディネート」の実践例の報告がなされました。

大阪でいうと、ひまわりの障がい者刑事弁護部会、司法と福祉連携PTの取り組みに当たりますね。

 

さらに、性犯罪について、大阪弁護士会の笠原麻央弁護士から、

健全な男女モデルの欠如(対等な男女が尊重しあい、協力しあう関係性を学習したことがない)や、

健全な形での自尊心や達成感を得られないことが原因となって、

「性加害行動」という偽りの達成感にはしり、だんだんエスカレートしていくメカニズムが示されました。

 

確かに、これが性犯罪の本質ではないかと私も思います。

笠原弁護士は、心理学な情状鑑定の必要性を訴えておられました。

私も賛成です。

 

弁護士からの実例報告のあとは、治療者側・支援者側からの実践例の報告がありました。(コーディネーターは、成城大学の指宿信教授です)。

 

   

 

まず、奈良県で、女性のための依存症回復支援施設「フラワーガーデン」を運営されている、代表者のオーバーヘイム容子氏から、入所者らの生活状況を写したビデオ映像を含めた活動報告がされました。

自尊感情が低く、自分の思いを伝えられない入所者が、入所者同士のコミュニケーションに悩みながら、今までとは違った、自然の中での生活や規則正しい生活を送り、心と身体を回復させて、薬物と決別しようとする様子が報告されていました。

 

いつも、大阪弁護士会で人権養護委員会の修習生のための研修で講師を務めていただき、ご一緒させていただいている大阪府地域生活定着支援センター長山田真紀子氏からは、地域生活定着支援センターの事業の概要や出口支援の現状の報告がありました。

 

また、沖縄ガーデン見学に同行した「東京TSネット」を主催する社会福祉士及川博文氏(海の中に入って、T文字を作っている彼)からは、福祉支援を必要とする被疑者や被告人に対して、いかにして障害に気づくか、その後、どのようにして、その人が必要とする福祉的支援を受けられるようにするかという更生支援コーディネートの実践例が報告されました。

及川さんは、人懐っこくて優しい、若き挑戦者です。

 

 

最後に、立命館大学で家族社会学・臨床社会学に取り組む中村正教授から、締めの言葉をいただきました。

 

このブログの冒頭で語った内容がそれですが、犯罪は、実は、社会の中で孤立し問題を抱えた被疑者・被告人による「偽の問題解決行動」として、「自己治癒行動」の側面があること、

しかし、一人で問題解決を図ることは出来ず、これを放置したままにすれば、孤立と孤独の中で犯罪を繰り返されてしまいかねないこと、

だからこそ、社会の側から支援の手を差し伸べ、社会的に問題解決を図っていく必要性があることが語られました。

この「治療的司法」の動きは、既に世界各国で起こっており、日本は大きく遅れているそうです。

 

世界各国の動きに遅れているという点からいえば、10月に日弁連人権シンポジウムで採択した死刑廃止に向けた決議も同じです。

刑罰制度改革、死刑廃止と同じく、その入り口である刑事司法の場においても、今後、情状弁護の質的大転換が起こってくるでしょう。

 

さて、今日も頑張っていきましょうか。

では、また。

 

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