一部執行猶予制度等に関する協議会 ~大阪地裁で~

今日は、大阪地裁で開かれた「一部執行猶予制度等に関する関係機関との連絡協議会」に参加してきました。

 

 

 

 

 

 

出席機関は、大阪地裁・大阪簡裁、大阪地検、大阪保護観察所、(各堺支部も含め)、大阪弁護士会、法テラス大阪、オブザーバーとして、大阪高裁でした。

大阪弁護士会からは、7名の弁護士が参加。

参加することになったときは、もっとこじんまりした会議かと思っていましたが、

大阪地裁の大会議室を使用しての、かなり大がかりな協議会でした。

 

会議のポイントを簡単にまとめると、以下のような感じでした。

 

元々は、過剰収容問題に付随して出てきた法案だったが、過剰収容は収束していく中で、切り離されていった。

制度趣旨としては、施設内処遇(刑務所での受刑)と社会内処遇(保護観察)の連携による再犯防止、つまり、特別予防である。

今までの全部実刑では、仮釈放期間が数か月と短いことが多く、

(刑期の少なくとも7割以上が執行されないと仮釈放にならないため、仮釈放期間は、例えば、2、3か月など、短い期間になることが多かった)、

社会に戻ってからの保護観察の期間が短かすぎて、再犯防止がうまく機能しなかった。

そこで、社会内での保護観察の期間を長くして、再犯を防止するための有効な措置として設けられた制度が、一部執行猶予制度である。

 

従来よりも、刑を重くするものでもなければ、軽くするものでもない。

つまり、従前、全部執行猶予だった人を一部執行猶予にして、重くするものではない。

また、逆に、刑を軽くするものでもない。

 

言い換えれば、全部実刑と全部執行の間をとった、「中間刑」ではなく、

あくまで、その人が再犯してしまうのを防ぐための(特別予防)「実刑のバリエーションの1つ」だ。

 

判断枠組みとしては、

まず、①実刑か、②全部執行猶予かを判断する。

②の全部執行猶予に相当するなら、全部執行猶予判決となって、一部執行猶予は問題にならない。

 

①の「実刑」の中で、懲役3年以下の場合に、

「再犯を防止するための、(一部執行猶予とする)必要性と相当性」という要件の判断をする。

 

ア 再犯のおそれがあること (しかし、これは、一部執行猶予の対象となるケースは、前科の存在や犯行態様などからして、「再犯のおそれ」は、ほとんどあることになろう)

 

イ 再犯防止のための社会内処遇があること

(主に、保護観察所の薬物離脱プログラムが考えられているようだが、その他、ダルク等の社会復帰施設や、治療のための別の方法などもあるだろう)

 

ウ それに、被告人がきちんとそれに乗るのか、社会内処遇に実効性があるといえるのか、が問題となる。

(保護観察に付する以上は、保護観察になじむ人でないといえない etc)

何となくきちんとやるんじゃないの?というだけでは足りず、効果を上げる社会内処遇とは?という視点が必要。

 

ということらしいです。                     

 

 

 

で、結局、具体的には、刑期のうち、どれくらいの期間が執行猶予になって、どれくらいの執行猶予期間(保護観察付)がつくのですか?と聞くと、

例えば、典型的な「覚せい剤の執行猶予中の再犯」を例にとると、

 

①初犯(単純所持+使用)の標準の量刑は(金太郎飴コース)、懲役1年6月、執行猶予3年、

②そこで、「薬物依存症」なわけですから、執行猶予中にまた再犯しちゃった!となったときは、

単純な使用+所持だけなら、検察官の求刑は、懲役2年、で、判決は、懲役1年6月、が標準です。

 

ちょっとかわいそうな事例とか、真面目そうな人だと、懲役1年4月くらいになって、

保釈+治療に取り組んだ事例では、懲役1年2月まで下がっていました。

しかし、懲役1年までは下がらず、再度の執行猶予にはならない、といった状況にありました。

(再度の執行猶予が出たこともありましたが、控訴審でひっくり返されてしまいました)。

 

このケースで、一部執行猶予になった場合は、どれくらいの量刑になるのですか?と聞くと、

「刑を重くはしないが、軽くしてもいけない」、「あくまで実刑の中のバリエーションの1つ」であるため、

②の再犯部分の実刑1年6月のうち、2割程度、つまり、3、4か月が執行猶予になり、

その執行猶予期間としては、だいたい2年間くらいが想定されているというのです。

(もちろん、懲役刑が長くなれば、執行猶予期間もだんだん長くなります)。

 

つまり、結局、①の前刑である執行猶予を取り消された上、

②の懲役1年6月程度のうち、懲役1年2月程度は実刑で服役せねばならず、残りのたった3、4か月程度を執行猶予にしてもらうために、保護観察を2年も付けられるというわけです。

 

私は、即座に、「それなら、要りません。」と言ってしまいました。

 

弁護活動では、あくまで本人の意思と希望を尊重するが、弁護人としては、「執行猶予期間がたった3、4か月程度なら、満期の方がいいんじゃないかと思う。」と言うと思う。

一部執行猶予をつけられないようにするために、被告人質問で、

「全部執行猶予にしてほしいが、それがダメなら、一部執行猶予にはしてほしくありません」と言わせるかもしれません、

と意見を述べました。

 

検察官からも、仮に、一部執行猶予判決が出たとして、弁護側からだけ控訴されたときに、

高裁は、一審判決を破棄して、全部実刑に出来るのですか?という質問が出ていました。

 

控訴審では、被告人側からしか控訴されていなければ、一審判決以上に量刑を重くして、不利益変更することはできませんが、

「一部執行猶予」と「全部実刑」では、どちらが重くて、どちらが軽いのかよくわかりません。

 

一部でも執行猶予になっている以上、一部執行猶予の方が軽くて、全部実刑の方が重いということになれば、

弁護側が控訴しても、(わずかな執行猶予期間のために、長期の保護観察に付せられるのは、保安処分的で嫌だ。全部実刑より、重いではないかと感じるから)、

不利益変更はできない、量刑不当にはあたらないとされてしまう可能性すらあるというのです。

 

となると、勝手に一部執行猶予にされないようにするためには、

被告人質問で「一部執行猶予は嫌です」と言っておかないと、

判決が出てしまってからでは、控訴も出来ないかもしれないではないですか。

 

しかし、そんなことを言うと、再犯することを予定しているようで、「反省していない」とされるのでは?

という意見も出ていましたが、

薬物やクレプトマニアなど、嗜癖系の犯罪は、回復過程でどうしてもスリップの問題が出てきます。

 

ちょっとスリップしても、きちんと治療や自助グループにつながっていれば、そのまま崩れずに、すぐ体制を立て直して戻ってくることが出来るのですが、

保護観察所では、たった1回のスリップでも、発覚すれば、通報され、執行猶予は取り消されて、

そこへ、新しい罪もかぶさって再犯となってしまいます。

 

スリップを一切許さない回復などありえず、それでは、回復者はほとんどいなくなってしまいます。

疾病の症状や、現実の回復過程を無視した、理想論だけの話は、保安処分以外の何ものでもないのではないでしょうか。

「反省がない」などという問題ではないと思います。

むしろ、「反省していて、嗜癖や依存症からの回復の困難さをしっかり理解しているからこそ、一部執行猶予を拒否している」というべきです。

 

もちろん、S弁護士が意見を述べておられたように、

「被告人本人が、一部執行猶予制度のデメリットも十分理解した上で、本心に希望する」なら、

弁護人らは、皆、そのための弁護活動と弁論を行いますが、

こんな過酷な「いばらの道」を希望する人は、ほとんどいないだろうというのが、弁護士らの一致した意見でした。

 

裁判所としては、もう少し、弁護士らが一部執行猶予を希望する意見を出すのではないかと思っておられたようですが、

出席した弁護士7名は、いっせいに否定的な意見を述べ、「弁護人からは、一部執行猶予は求めない」と述べていて、

裁判所としては、少し戸惑っておられたようでした。

 

最後は、検察官の方から、3、4か月程度しか執行猶予にならないなら、保護観察は嫌だ、なんて、けしからんじゃないか、

本当に更生する気があるなら、少しでも早く出てきて、更生したいと思うはずだ、

というような意見が出ていられましたが、

「そんなきれいごとで、更生なんかできるか!」という気分でした。

 

そもそも論をいえば、刑務所に行かせてしまうこと自体が、更生の妨げとなるのであって、

実刑部分が、2、3か月とか、どんなに長くても、6か月以内程度で、グっと圧縮されていれば、

(つまり、社会から断絶されずに、すぐ社会へ戻ってくるのなら)、

一部執行猶予制度には大きな意味がありますが、上記のような内容では、保安処分以外の何物でもありません。

 

こりゃ、あかんわ…というのが、率直な感想でした。

 

私としては、従前から述べていたように、保釈を活用して、治療なり、カウンセリングなり、ダルクのような社会復帰施設なり、

個別の依存原因に対応した対処法にきちんとつないだ上で、

本人が努力して回復をめざし、親族もそれを支援して、社会復帰体制が整っている人や、

仮に、お金の問題などから、現時点での保釈や治療は出来なくても、本人の経歴や資質等からみて、保護観察によることで十分社会復帰が見込める人(たまにですが、こういう人もいるのです)に限定して、

かなり人を厳選した上で、一部執行猶予とする代わりに、

実刑部分は上記のように大きく減らし、最大でも6か月以内にして、執行猶予期間を長くすれば良いと思います。

 

そうすれば、被告人が社会から断絶されずに、社会復帰できるとともに、

きちんと頑張る優秀な人には、「ご褒美がある」、「努力は報われるのだ」という流れが出来て、

そんな成功事例があるなら、自分もやりたい、家族としても支援したいという人が次々と現れ、

薬物犯の更生を大きく促進する起爆罪になる可能性もあると思っています。

 

でも、今日の協議会の内容では、……、ダメでしょうね。期待薄。

ああ、もう、仕方がない。

今までどおり、再度の執行猶予をめざし、ダメでも、全部実刑で刑期を短くすることを目指した方がよさそうです。

 

取り急ぎ、ご報告でした。

 

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