再度の執行猶予判決 ~覚せい剤の執行猶予中の再犯にて~

先日、このブログで紹介させていただいた覚せい剤(自己使用・所持)の最高の情状弁護事件(自分で言うのだから、あつかましいですね…)で、再度の執行猶予判決をいただくことができました!

 

 

 

 

 

 

これも治療に協力して下さった精神科医の中元先生、カウンセリングをして下さった心理士の玉村先生のおかげ、

さらには、(情状事件なのに)弁護側の証拠に全部不同意を出してくれた検察官のおかげ、

(全部不同意!と言われたときは腹を立てましたが、そのおかげで医師や心理士の証人尋問が出来たわけです。

今では被告人・家族ともども、とても感謝しています。)、

時間と公判回数を重ねて、丁寧に審理して下さった裁判官のおかげです。

皆さま、どうもありがとうございました。

 

ただ、やはり、最後の決め手は、被告人を立ち直らせたいと結束して支援体制を作った家族の思いと、

それにこたえて努力した被告人の思いが重なったことにあったのだろうと思います。

 

刑務所に行かなくてよくなった彼の人生は、全く違ったものになりました。

 

実刑なら、量刑の多少の増減はあったにしても、3年近い期間を刑務所で過ごさねばならず、

社会との断絶は、出所後の努力によってもなかなか埋めがたいものとなったでしょう。

しかし、この断絶を回避できたことで、彼の人生は本当に違ったものになりました。

 

まるで、道が自然に2つにわかれて、良い方に歩いて行けたような感じがします。

 

 

実をいうと、弁護人である私は、弁論で再度の執行猶予の主張はしていませんでした。

弁論を書くとき、少し迷ったのですが、あえて書かなかったのです。

これまでもずっと実刑の覚悟で臨んできましたし、被告人も家族も実刑を覚悟していました。

 

判決後にすぐ提出できるように、保釈請求書も書いて、控訴申立書も弁護人選任届も用意して、

ついでに積み増し金のお金も用意して、再保釈に向けて、もう準備万端でしたからね!(笑)。

 

この無欲な姿勢が功を奏したのかどうかはわかりませんが、

私は、最初から再度の執行猶予を期待して臨むのは良くないと思っています。

 

結局、薬物を断ち切ろうという覚悟、自分を変えようという覚悟と行動を「先延ばし」にするだけだからです。

 

「今回も何とかなるだろう」、「治療していれば、再度の執行猶予を付してもらえるだろう」なんて、

最初から期待していたら、

初犯で当然に執行猶予判決を受けたときの二の舞になってしまいます。

それではダメなのです。

 

実は、私は、先日あったクレプトマニアの方の弁論でも、刑罰の威嚇力と抑止力は重要だという弁論をしました。

(ただし、このケースは、法律上、執行猶予はつけられない事案でしたが…)。

 

刑罰の威嚇力と抑止力があればこそ、被告人は、自分を変えていかねばならない辛い治療に真剣に取り組むことができる。

しかし、犯罪の根本原因に「疾患」が横たわる場合には、同時に「治療」をせねばならない。

なぜなら、受刑だけさせても、受刑に病を治す効果はないからだ。

 

むやみな長期受刑には全く意味がない。

本人と家族の生活を破壊するだけである。

それは、結局、健全な社会の実現を損なうことにつながる。社会は個人と家族から成り立っているのだから…。

ゆえに、本人が真に反省し、治療に努力し、回復軌道に乗っているなら、

1日も早く社会復帰させ、社会内で治療につなげていくべきだ…

というような弁論をしたのです。

 

 

検察官は、弁護人である私が、「病にはどこまでも治療を…」と言うと思っていたと思うので、

少しあてが外れたのではないでしょうか。

 

しかし、私は上記のような考え方が正しいと思っています。

 

薬物の場合も全く同じだと思います。

(ちなみに、この条件反射制御法の考案者である精神科医平井慎二医師の主張は、

司法と医療の連携の必要性を説くものです【無限大連携の理論】)。

 

 

違法行為は一定のところで抑止しないと社会の秩序や安全は保てません。

病であることを永遠の言い訳にすることはできないと思います。

どこかで「変わろう」「今までの自分には決別しよう」と決意する必要があるのです。

 

本件では、それができたからこそ、再度の執行猶予をいただけたのだと思っています。

 

判決では、医療機関での治療やカウンセリングを行い、原因を解消しようと努力したことや、

この治療法が医師が行っているものであり、効果を期待できるものであること、

本来は、前刑の執行猶予時にその体制をくむべきであったが、遅ればせながらとはいえ、

家族も事態を重大に受け止め、結束して被告人の更生のために支援体制を築いたこと、

被告人本人も一瞬の緊張の緩みから再犯に陥ったことを真摯に受け止めていることなどを評価して、

情状に特に酌量すべきものがあると、再度の執行猶予を付して下さいました。

(まだ手元に判決文がないので、再現はやや不正確ですが…)。

 

裁判官が法廷でおっしゃったように、覚醒剤の自己使用・所持事案で、執行猶予中の再犯に対して、

再度の執行猶予が付されたケースはごくまれだと思います。

 

この判決にポロポロ涙をこぼしていた母と被告人の今後の人生に幸がありように…。

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。