朝日新聞(夕刊)に記事が掲載されました
本日の朝日新聞(夕刊)で、疑似注射器を使った条件反射制御法による治療の取り組みが紹介され、
私が連携させていただいている精神科医:中元総一郎医師や、私とアパリ・中元医師で連携して治療へつないだ覚せい剤事件の一例が記事に掲載されました。
記事は新聞社さんの視点から書かれていますが、記事の中で我々が本当に伝えたかったポイントは、
① 更生を目指す人が再び覚せい剤に手を出し、社会と刑務所を行き来する悪循環を断ち切りたいというところと、
② 私のコメントとされている、「再犯を防ぐ効果的な方法が限られている中で、(弁護士、精神科医、支援団体が連携して…、※ここ、消されちゃった言葉です)取り組む価値は(十分に)あると思う」
というこの2点です。
あとの部分は、ちょっと割り引きながら、記事を読んで下さいね。
詳細を知りたい方は、私のホームページの「薬物事件における連携」のページや、「条件反射制御法」のページをご覧下さい。
掲載された写真は、今年の1月22日に、私が企画して大阪弁護士会の捜査弁護部会で開催した研修会の写真です。
写真では、中元医師だけが写っていますが、左から中元医師にマイクを差し出している手はアパリの尾田さんの手ですし、左の注射を打たれている腕は、実は、私の腕なのです。
研修のテーマは、「保釈をとって治療につなぐ ~薬物事件における弁護士・精神科医・支援団体による司法的連携~」でした。
中元総一郎医師とNPO法人アパリの尾田真言事務局長を講師としてお招きし、弁護士からは、企画から報告までを私が全部担当した「独壇場」的な研修でした。
3人で「条件反射制御法による治療」と「薬物事件で3者の連携により保釈を得て、治療につないでいく具体的な方法」を少しでも多くの人に広めようと、大阪の弁護士達を対象に行った研修だったのです。
自由にやらせて下さり、協力して下さった大阪弁護士会刑事弁護委員会・捜査弁護部会の先生方や事務局の方には本当に感謝しています。
記事の見出しは、「脱覚醒剤へ奇策」。
(※ うーむ、こうなるか…。しかし、新聞記事になるときはよくあることです)。
新聞社さんの思惑もあって、条件反射制御法の中で利用する「疑似注射器」に焦点があたった結果、
紆余曲折の末に、このような形で掲載されました。
しかし、疑似注射器を使用した模擬注射というのは、注射を打って使う「覚せい剤依存」の場合の、条件反射制御法による治療の1パートに過ぎません。
(大麻とか覚醒剤でもあぶりで使う人だったら、疑似注射ではなく、疑似吸引になりますから)。
他にも「キーワード・アクション」というものがあり、これが重要な役割を果たします。
記事の表現や私の言葉も、必ずしも正確なものではないのですが、とにかくこういう手法と取組みがあることを知っていただければと思います。
あとは、逮捕・勾留された方、ご家族の方で、「もうこれっきりにしたい」「薬物依存症から回復したい」と思われる方は、
とにかく私のところに来て下さい。
正確にご説明いたしますので…、というほかありません。
さらに、新聞記事では、認知行動療法からの批判なども書かれています。
実際、お医者さまの世界では、激しい理論的対立があるため、新聞社さんとしてもその点に触れないわけにはいかなかったものと思われます。
ただ、現場で、実際に覚醒剤などの薬物依存症の方にかかわっている私のような弁護士やアパリのような支援団体の人から見ると、認知行動療法と条件反射制御法は、「どちらかが正しくて、どちらかが間違っている」というような二者択一の関係にあるのではなく、それぞれの治療法に良い点と悪い点があり、特徴があって、むしろ、相互に補完し合っている関係にあると思います。
認知行動療法というのは、ミーティングなどを行う中で、自分の感情や思考に気づき、それらと行動とのつながりにも気づいて、思考に働きかけることで行動も変えていくというような治療法ですが、
薬物の場合は、自分がどういうときに覚せい剤等を使っているか、その時々の感情や思考、行動に気づいて、考え方を変え、行動を変えていきましょうということになります。
そして、最終的には、引き金になる物や状況を避けましょうという話につながっていくのではないかと思います。
引き金になるような物や状況を理解し、それに近づかないこと自体はとても重要なことです。
しかし、覚せい剤依存に陥っている方の場合、以前に覚せい剤を打っていた際の様々な物や状況と、覚せい剤の使用の快感とが、その人の中で結びついてしまい、条件反射が出来上がってしまっています。
結びついている物や状況は、意外に日常的なものも多く、引き金になるものを避けましょうと言われても、そう簡単に全てを避けきれるわけではないのです。
刺激は突然やってきます。
出所して社会に戻ってからは、更生しようとしても、仕事も生活も苦しいことが多い中、たまたま引き金になる何らかの刺激を受けてしまったら、その時には、また覚せい剤を使いたいという激しい渇望が湧き上がってきてしまうのです。
(被告人たちの話を聞くと、皆、数か月は頑張るのですが、だいたい3か月~6か月くらいで、何かのきっかけで、耐えきれなくなって再使用してしまうようです)。
その渇望をどうやって弱めるか、覚せい剤を使用したいという状況を現実にどうやってやり過ごすか、その部分の条件反射に真正面から対応しようとしたのが「条件反射制御法」だと思います。
ですから、現場で見ている人間からすると、2つの治療法は対立しているというよりは、両者で補完し合っている関係にあるから、もし受けられるものなら、両方とも受けておくのが一番いいんじゃない?という印象です。(贅沢な話ですが)。
少し長くなりましたが、条件反射制御法は、けっして「奇策」ではありません。
取り組む価値は十分ある治療法です。
この記事をきっかけに、1人でも多くの方がこの治療法の存在を知り、薬物依存症から立ち直って、更生していけるようになることを願っています。