刑の一部執行猶予制度
刑の一部執行猶予制度が、6月13に衆議院を通過して成立しました。
この法案は、平成23年に参議院を通過したものの、衆議院の解散で廃案になっていました。
このたび改めて衆議院を通過したものです。
刑の一部執行猶予というのは、例えば、6月14日付の毎日新聞(朝刊)が掲載した記事の例をとると、
「懲役2年、うち懲役6月は2年間保護観察付執行猶予」というようなものです。
これはつまり、判決で言い渡された懲役2年の刑のうち、1年6か月は刑務所に入り、その後は、保護観察所の指導を受けながら、2年間の執行猶予期間を無事満了できれば、残りの刑期である6か月は刑務所に行かなくてすむということです。
しかし、刑務所を出た後の2年の間に、再び犯罪を犯してしまったり、遵守事項を守らなかったりして、執行猶予を取り消されるような事態が生じれば、残り6か月の刑期についても服役しなければなりません。
現在の制度では、刑務所を満期出所すれば、その後、刑務所や保護観察所などの公的機関が出所者を監督することができないのはもちろんのこと、
仮釈放が認められて保護観察になっていても、仮釈放期間は通常さほど長くはありませんから、保護観察所が長期にわたって出所者を指導・監督をすることはできません。
そこで、このように刑の一部について、保護観察付執行猶予とすることで、保護観察所による長期の監督と支援を可能にしたわけです。
特に、再犯率が高い薬物依存症者については、早めに社会に出して、専門的な治療につなげることで、改善更生につなげることに狙いがあるとされています。
確かに、その狙いはよくわかりますし、公的支援が受けられるというのは、基本的には良いことでしょう。
しかし、気になったのは、実刑期間と執行猶予期間の設定の仕方によっては、驚くほど長い間、公的機関に自由を拘束されることになりかねないことです。
例えば、NHNの夜7時のニュースでは、「懲役3年。うち2年が実刑、残り1年について、保護観察付執行猶予5年」という例が挙げられていたそうです。
となると、刑期のうち1年間は執行猶予になるとはいえ、2年間も実際に服役して、刑務所でつとめたにもかかわらず、その後さらに5年間も自由を拘束されることになるわけです。
仮に、今までなら、懲役3年間はまるまる実刑だったけれど、仮釈放が認められることもあったし、どちらにせよ3年の満期がきたら、あとはまったく自由でした。
新しい制度では、トータルの拘束期間がかえって長くなる可能性があるわけです。
(これは、ある意味、恐ろしいことです)。
しかも、保護観察は「治療そのもの」とは異なります。
病院による治療の場合、純粋な支援者であり治療者である病院は、様々な工夫をしながら、1回スリップしたというだけでは即通報はしない方針をとっています(ただし、院内へ持ち込んだりしたらダメです)。
しかし、もし、保護観察中にスリップしたのが保護観察所にばれたら、立場上、通報を控えるようなことはできません。
即警察行きなわけで、回復過程でスリップすることも多々ありうる薬物依存症者にとっては、拘束期間が長いことは、大きなマイナスに働きかねません。
要は、上記の実刑と執行猶予期間の割合や、保護観察付執行猶予期間がどの程度に設定されるかによって、つまり、量刑相場がどのくらいに設定されるかにもよって、薬物依存症者にとって本当に利益になる制度になるかどうか、結果が異なってくるわけです。
しかし、新しい制度のため、量刑相場なるものはまだ形成されていないわけで…。
実際にどんなふうに運用されていくのか、非常に興味深いところです。
法案は3年以内に施行される予定ですが、今現在も薬物依存症者は日々逮捕され、裁判も日々行われています。
今、どう立ち直っていくかが問題です。
というわけで、アパリとの連携のもと、刑事裁判で保釈をとって、専門病院の精神科閉鎖病棟で入院治療する私たちの手法を今後もお勧めいたします。