疑似注射器とサティスフェイク(薬に似せた錠剤)
前回、ニプロ株式会社・総合研究所で行われた条件反射制御法の研修会のことを書かせていただきました。
そこで、ニプロ株式会社が開発された「疑似注射器」を使って、あえて覚せい剤を使用していたときの状況を再現する治療法をお話ししました。
覚せい剤使用者は、注射器の中に覚せい剤を入れて、水で溶かすと、注射器の針を血管に打ち込みます。
そして、ちゃんと針が血管に入っているかどうか確かめるために、一度、ピストンを引いてみて、血が注射器内に逆流するのを確かめてから、ピストンを押して、覚せい剤の溶液を身体に打ち込むという打ち方をするわけです。
ニプロさんが開発されたこの「疑似注射器」は、そんな覚せい剤の使用状況を正確に再現します。
ピストンを引くと、偽の赤い血液用のものが、注射器の中に現れるのです。
写真の疑似注射器は、使用済みのもので、赤い偽血液が崩れて広がっていますが、最初にピストンを引いたときは、まるで本物の血液のかたまりがふわっと出てきたように見えて、本当にリアルです。
こういう治療用具を利用しながら、覚せい剤使用状況を再現し、「覚せい剤を使いたいっ!!」という刺激に耐えられる身体を作りあげていくのです。
もう一枚の写真は、株式会社メトグリーンが開発された「サティスフェイク」という疑似薬です。
正確には、「乳糖含有食品」だそうです。
薬理作用はありませんが、あえて精神薬に似せた形状で作られています。
依存症の患者さん達の中には、大量の精神薬を飲みたがる方が多くいます。
しかし、その方たちは、本当の薬理作用を求めているのではなく、「精神薬を大量に飲むこと」自体からくる精神的な安心感のようなものを求めていることが多く、そのような場合に、このサティスフェイクを飲むことで対処できる場合があるそうです。
ちなみに、このサティスフェイクは、一般には販売されておらず、医療機関にしか販売されていないとのことでした。
前回紹介した、NPO法人アパリの尾田氏、精神科医中元先生と弁護士の私は、三者で連携して、覚せい剤取締法違反で逮捕されてしまった方々について、出来る限り保釈を取って、このような治療につなげる活動をしています。
もちろん、逮捕されていなくても、治療は受けられるわけですが、人間は切羽つまらないとなかなか本気で治療に取り組めない生き物です。
切羽つまらないうちは、「まだまだ大丈夫さ。俺はやめる気になれば、いつでも薬をやめられる…。」なんて考えていたりします。
でも、実際は、全くコントロールできません。
そういう意味では、逮捕されて、裁判を受けなくてはならない!、刑務所に行かなくてはいけない!という時が、「最高の治療時」なのです。
そして、真剣に治療を受けたことを、裁判で量刑に少しでも反映させてもらえれば、
①本人は刑務所には行きたくないから(又は、少しでも刑期を短くしたいから)必死で頑張る、
②家族も本人に刑務所に行ってほしくないから(又は、少しでも早く社会復帰してほしいから)協力的に支援してくれる、
③医師は、裁判所の強制力が背後にあると、治療がとてもやりやすくなる
と、まさに一石三鳥の効果が生まれます。
出所したと思ったら、数か月でまた使用して、逮捕されてしまう。
そして、繰り返すうちに、刑期はだんだんと長くなっていく…。
何度も刑務所と社会を行き来する人生は、本人をみじめにするだけでなく、家族にも図り知れないほどの負担がかかり、とても辛いものです。
より多くの方がこの治療を受けてみて下さればと思っています。