再度の執行猶予判決 ~知的障がい者の万引き累犯事案にて~
先日、ブログに掲載させていただいた知的障害の方の万引き累犯事案で、再度の執行猶予判決をいただくことができました。
これも、障害に関する専門家である社会福祉士さんのご協力があったこと、
そして、作成いただいた「更生支援計画案」のおかげであり、
更生支援計画案の実行のために、社会福祉士さんの働きかけに応じて動いて下さった行政の福祉担当者の方々のおかげです。
本当にありがとうございました。
この事案で、私が一番言いたかったことは、弁論要旨の最後の部分でした。
これは、法廷で証言して下さった社会福祉士さんの言葉を引用する形でまとめたものです。
社会福祉士さんは、下記のような趣旨の証言をされました。
障害があるからといって、すべての方が刑罰を受けない方がいいとは思っていない。
刑を受けることで自らの問題に向き合って、その後は速やかに必要な支援を受けるという体制ができれば、その方がなじむ方もいるとは思っている。
しかし、そのためには、受刑の前に、成育歴や適切な医療を受けたかどうかがきっちりと精査されるべきである。
それをした上でもやはり再犯するということであれば、一定の刑罰を受けることはあり得ると考えている。
そして、弁護人はこう主張しました。
生来、障害を抱える者が必要とする支援を一度も与えないまま、ただその者の行為だけを責めて、刑罰だけを与えるのは正義と人道に反する。
被告人には今一度、必要な支援と医療を受け、更生にむけて努力する機会が与えられるべきである。
それをしてもなお、被告人が再犯するというのであれば、受刑となるのは致し方ない。
よって、被告人に対しては、保護観察に付した上で、再度、その刑の執行を猶予することを強く求める次第である。
ただし、本件でのこの主張は、けっして言葉だけのものではありませんでした。
弁護人が資料を集め、必要な福祉的申立てをし、社会福祉さんが更生支援計画案をたて、
何度も面会の上、行政の方々とカンファレンスの機会を持って下さいました。
行政の方々も、その呼びかけに応えて、拘置所まで面会に来て下さったり、受け入れ先を探して調整して下さったり、
尽力していただきました。
この事案では、弁護士の私も含め、
更生支援計画案を作って下さった社会福祉士さん、
行政の福祉担当の方々、
保佐人に就任して下さった社会福祉士さん(更生支援計画案を作成された方とは別の方です)と、
複数の専門家が、それぞれの立場でその役割を果たし、連携し、協力し合った成果が表れたと思います。
検察官もスマートな方でしたし、裁判官も清々しい雰囲気が漂う方でした。
多くの人に恵まれた彼女には、このチャンスを生かして、
なんのサポートも受けられなかったとはこれまでとは違う、自分自身の新しい人生を生きていってほしいと思います。
判決文を朗読後、裁判官が、「わかりましたか?」と尋ねると、
はにかみながら、「ちょっと、わからなかった…」と、被告人。
「どこがわかりませんでしたか?」
「全体的に…」。(弁護人:思わず微笑。しょうがないですよね。だって、知的障害なんですもの)。
そんな彼女のために、裁判官は、わかりやすく判決文を言い直して下さいました。
判決文の朗読自体にかかった時間は5分弱程度でしたが、その説明にかかった時間はなんと15分。
裁判官は、とても丁寧に言い直して下さいました。
この説明でおかげで、7、8割くらいまでは理解できたのではないかと思っているのですが…。
それでも、まだ少し難しく感じている部分があるだろうとは思います。
そして、最後に、裁判官からの説諭。
これから、新しい環境の中で、不安やストレスがあるかもしれませんが、
一人で抱え込まないでください。
イライラしたり、お薬が欲しいと思っても、あわてて結論を出さずに、いろいろな人に相談して下さい。
あなたも努力するとこの法廷で言ってくれたので、
あなたの言葉を信じて、今回は執行猶予にすることにしました。
という感じだったと思います。
この説諭の言葉は、きちんと被告人にも伝わって、理解できていると思います。
弁護人にできるのは、チャンスを与えるところまで。
このチャンスを生かすも殺すも、被告人次第です。
これからは、何もかも初めてで、ときには辛く、不安なときもあるでしょう。
でも、そんなときには、彼女が法廷で最後の意見で述べてくれたように、
チャンスを与えてくれた人達の顔を1人1人思い出して、
1日、1日を丁寧に生きて、本来の自分を存分に発揮する人生を歩んでほしいと思います。