~覚せい剤依存症からの回復を目指して~
ここでは、木津川ダルク代表の加藤武士さんのお話をご紹介して、木津川ダルク訪問見学の様子をご紹介したいと思います。
加藤さんには、これまでたくさんの薬物事案でお世話になってきました。
拘置所まで特別面会に来ていただいて、薬物依存症からの回復について、アドバイスをいただきました。
今日は、そのアドバイスで心に残ったものをご紹介したいと思います。
また、木津川ダルクを訪問した際の様子も写真でご紹介したいと思います。
PART1 「拘置所で聞いた加藤さんのお話」
まず、PART1では、覚せい剤依存症が根本原因になって多数の事件(例:窃盗や詐欺など)に発展してしまい、
苦しんでいる被告人への加藤さんからのアドバイスをご紹介してみたいと思います。
被告人:もうこれで刑務所は3回目になります。
何回入っても、慣れることはないし、嫌なものですね…。
家族が病気になっているのに会えないし、社会にいてこそ「人生」だと思います。
今度出て、またやってしまったら、本当にもう自分の人生はないな…と思っています。
数年前に覚せい剤をやって、付き合っていた女性とも別れて、人生がおかしくなりました。
そのときから、ずっと、やめたい、やめたい…と思っているけれど、やめられません。
いつも同じことのくり返しで…。
今回も出所してから仕事をしようと頑張っていたのですが、うまくいかなくて、
悩んでいたとき、友達から薬物を勧められて、やってしまったんです。
やめられないのは、自分の意志が弱いせいだと思っています。
加藤さん:覚せい剤をやめるための「強い意志」って、どんな意志だと思ってるの?
例えば、風邪を引いて、38℃の熱を出しているときに、
「治るぞ!」「強い意志で、36・5℃にするぞ!」といったって、無理でしょう。
お医者さんに行って、お薬をもらって飲んで、安静にして…っていうように、
専門家に相談して、風邪を治すためにやるべきことをやるじゃない?
それと一緒だよ。
意志の使い方がずれているんだよね。
意志を使うなら、きちんと専門家の意見を聞いて、それに従おう、治療していこう…って形で使わなきゃ。
でも、今まで、ずっと「覚せい剤をやめられるかどうかは、個人の意志の問題だ」っていう教育を受けてきたんだから、仕方がないよね…。
覚せい剤を、「強い意志」だけでやめようとすれば、
- もっと嫌な思いをして、孤独になって、死にたいと思うようになるか、
- どうせ俺はこんな人間なんや、どこにも雇ってもらえないし、結婚もできないし…と開き直るようになるか、
どちらかしかないよ。
それに、「強い意志」っていうのは、自分だけで持てるものじゃないよね。
誰かがいて、初めて出てくるものだよね。
例えば、嫁さんが待っててくれるとか、子どもが入学するまでには帰ろうとか…。
覚せい剤のせいで、何もなくなってきてるのに、「強い意志」なんて持てるわけがないんだよ。
むしろ、薬物を使っていると、意志は弱くなってしまうよ。
薬物のせいで、脳がだんだん変化していくんだよ。
小学生だったときとか、中学生だったときとか、薬物を使っていなかったときとは変わってきている。
皆そうなるんだよ。
加藤さん: 今まで、何度も、覚せい剤で刑務所に入れられて、出所後は、友達のつてを頼って頑張って働こうとして、でもうまくいかずに、結局、薬物を使ってしまっていたんでしょう?
今まで何度もやってみて、でもうまくいかなかったのに、同じやり方をして、うまくいくはずないじゃない?
本当に覚せい剤を止めようと思ったら、
今までやったことがないやり方を試してみなくちゃ!
ダルクの仲間と一緒に、新しいやめ方を試してみようと思わない?
同じことをやっていて、薬物をやめられるなんて、非現実的だよ。
今まで、働いて仕事をやりながら薬物をやめるってことは、出来なかったでしょう?
だったら、違うやり方を試してみないと!
被告人: もしダルクに行った場合、1日のスケジュールってどうなるんですか?
木津川ダルクのHPを弁護士さんから差し入れてもらって見たんですけど、
時間が余って暇だと、また覚せい剤をやりたい気持ちになってしまうんじゃないかと心配なんです。
加藤さん: ダルクでは、人によって、いろいろなことをしているよ。
高校入学をめざしている人もいれば、大学進学を目指している人もいるし、
パソコンを使えるように、勉強している人もいるし…。
それに、やろうと思えば、作業や仕事は結構あるんだよ。
仲間の世話をしたり、雑用もたくさんあるし…。
暇だというから、「じゃ、作業をやって」と頼むと、皆、嫌がるんだよね~。
ほんとに困っちゃうよ(笑)。
被告人: ミーティングって、やっぱり参加した方がいいんですか?
薬物をやった人ばかり集まっていて、かえって、また使いたくならないか、すごく心配なんですけど…。
加藤さん: もちろん、参加した方がいいよ。
むしろ、使いたい気持ちを話すことで、止まりだすんだよ。
ムシがわいた方がいいんだ。
ムシがわいて、「使いたい気持ちになるけど、使わないでいられた」という体験をすることで、自信になっていくんだよ。
そういう経験こそが自信につながるんだ。
それにね、このやり方は、日本だけとか、ダルクだけの特殊なやり方じゃないんだよ。
薬物のやめ方としては、世界中で、このやり方が王道なんだ。
世界中で認められているやり方なわけだ。
この方法を実行しているうちに、ゆっくりだけど、必ず回復していくよ。
例えば、傷口を考えてみてほしいんだけど、ズバッと切ってしまったときも、
最初は傷口が開くけど、そのうち傷がふさがって、だんだん目立たなくなっていくでしょう?
あれと一緒だよ。
怪我をしなかったときと全く同じ状態には戻れないけれど、でも、必ず治るんだよ。
加藤さん: それから、人間関係だけどね…、
薬物を使ったことのない人と一緒に仕事をすることはできるけど、
薬物を使ったことのある人と、仕事をすることはできないよ。
また、薬物を使いたくなって、使ってしまうからね。
薬物を使っていた仲間でも、たまに電話をかけ合う程度の関係に戻ることは出来るけれど、
それには時間がかかるよね。
加藤さん: 刑務所の中では、できれば、夜間は独居がいいね。
雑居だと、悪口や悪だくみに引っ張りこまれたり、仕事を紹介されたりするからね。
そういう話に関わっちゃダメだよ。
たわいのない話で盛り上がらないこと。
そういうのに関わると、刑務所を出てきてから苦労するだけだからね。
加藤さん: それとね、あなたは経験したことがないからわからないと思うんだけど、
出所後、薬物を使ってしまう人が、使っている人たちに出会って、そこにつながってしまっているように、
やめている人達はやめている人達に出会って、やめている人達につながっているんだよ。
だから、あなたも新しい人達につながれるように、やったことがないことをしてみるのがいいんじゃないかな。
加藤さん: 今は、ダルクの中にも自立支援準備ホームの登録をしているところがたくさんあるからね。
そういうところなら、仮釈放の間は、法務省から生活費を出してもらえるので、
思い切って、大阪を離れて、他の土地のダルクで新しい生活を目指してみてもいいかもしれないね。
加藤さん:最初の話に戻るけど、風邪を引いて、38℃の熱を出しているときに、
お医者さんのところに行くのは面倒だけど、ちゃんと行けば、ずっと楽になるでしょう。
ダルクに行くのは面倒に思えるけど、行けば、ずいぶん楽になっていくんだよ。
嫁さんが戻ってきたとか、子どもの成人式に出るとか、人間関係が回復している人もいるしね。
ダルクで失敗した人達の話ばかり聞かされたりするかもしれないけど、
実際は、ダルクを通って、社会の中に戻っている人達、ダルクで復活した人達がたくさんいるんだよ。
刑務所からでは、見えていないだけなんだ。
薬物をやめていくための正しい道具をもてば、薬物はやめられるんだよ。
PART2 木津川ダルク訪問見学記
もうずいぶん前のことになりましたが、
初夏のある日、入寮予定の被告人と一緒に、木津川ダルクを訪問させていただきました。
当日は天気もよく、風が気持ちいい日でした。
木津駅前に一軒だけある定食屋さんで、他人丼を前にご機嫌な私。
木津川ダルクは、木津駅から、子ども時代に見たような畑を横目に、住宅街を少し入って、10分ほど歩いたところにありました。
木津川ダルクのパンフレットです。
下のお部屋の写真も撮らせていただいたのですが、フラッシュをたいてなくて、暗く写ってしまったので、パンフレットの写真で掲載します。
リビングにあるテーブル。
これから、ミーティングの予定です。
条件反射制御法による治療を経て、病院を退院後、社会へ戻っていくつなぎのステップとして、ダルク入所は一つの大きな選択肢です。
その滞在期間は、①症状の重さと、②達成しなければならない個人的課題によって、異なってくるだろうと考えています。
①の症状の重さですが、症状の重いときに、焦って社会に戻ればまた失敗してしまうのは目に見えています。じっくり腰を据えて、それなりの期間をダルクで過ごすべきです。
他方で、きちんと条件反射制御法による治療を終えて、症状の軽い人にとっては、ここは通過点であろうと考えています。
②の個人的課題の達成度というのは、例えば…、
・薬物を使用しない世界で、「楽しみ」や「生きがい」を見つけていくこと、
・薬物を使用しないで、自己表現し、自分自身や他人と折り合いをつけていく方法を身に付けること、
・薬物を使用しないで、ストレスに耐え、苦難を乗り越えて、忍耐強く辛抱する力を身に付けること…
などです。
この2つをよく吟味して、体調を安定させ、薬物を使用していたときに抱えていた個人的課題にきちんと向き合い、社会で耐え抜く力を身につけてから、社会に戻っていってもらいたいと思います。
けっして焦ることなかれ、しかし、現状に甘んじることなかれ。
今はここで頑張ろう。でも、いつか必ずここから出て、社会に戻ってやるんだ!
という強い決意と覚悟をもって、
自分が歩むべき道を、確実に、歩んでいってほしいと願っています。