1 成育歴や虐待の影響

犯罪の中には、子どもの頃の家庭環境や虐待など、「成育歴」の影響を受けて、犯行に至っているケースが多数あります。

罪名に限定はなく、薬物、窃盗、傷害など比較的軽微な事件のときもあれば、裁判員裁判の対象になるほど重大事件のときもあります。

例えば、

  • 身体的虐待・精神的虐待・性的虐待・ネグレクトがあった。
  • 過剰な支配や、子どもの自立性・独立性を損なうほどの過干渉があった。
  • 幼い頃、安定した養育者がおらず、不安定な愛着の問題を抱えている。
  • 両親や親族間に暴力やDVがあった。
  • アルコール依存症や薬物依存症の人がいる家庭で育った。
  • 養育してくれる人がいなくて、児童養護施設で育った。

など、実にさまざまなケースがありますが、これらが問題になるのは、このような成育歴が、無意識的に本人の「価値観」や「感情」に影響を与えており、それが「行動」へとつながっていることです。

しかし、長期間、その環境で生きてきた本人にとっては、いわば、それが「当たり前の世界」になっているため、自分のどこがどうおかしいのか自覚することが出来ません。

そして、自覚のないまま、問題行動へ、ときには、犯罪行為へとつながってしまうのです。

このような事情は、刑事事件の「情状」でいうならば、「犯行に至る経緯」や「動機」となって現れて、犯行に大きな影響を与えているのですが、

現在の刑事司法では、このような背景的事情は、ほとんど無視されているといってもいいほど軽く見られています。

しかし、本当は、このような犯罪の背景は非常に重要なものです。
刑事裁判でも、以下の2つの観点から、重視されるべきです。

① 量刑に影響を与える情状として。(いわゆる「犯情」として)
② 犯罪から立ち直って、自分の本来の人生を生きるため(更生)。
そして、二度と罪を犯さないため(再犯防止)。

刑務所に行きさえすれば、過去を精算して、新しい出発ができるなどと期待するのは無謀というものです。

刑務所の環境は悪く、暑さ、寒さに耐えながら、人間関係で神経をすり減らし、何とか懲罰を食らわずに1日も早くここを出たいと願いつつ、日々を送るだけで精一杯です。

刑事裁判のうちに、過去を明らかにして、自分自身と犯罪原因をよく知り、新しい出発をするためにはどうすればよいのか、有効な指針を手に入れる作業を行っておくべきなのです。

これは更生保護には必須のプロセスだと思います。

私の弁護活動では、心理士や精神科医のサポートを得ながら、成育歴に対する的確な分析と、裁判で量刑判断につながる主張を目指していきます。

依頼者が過去を浄化して、立ち直っていく過程をサポートしていきます。

 

 

2 発達障害の影響

自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠陥多動性障害)など、背後に発達障害の影響がある犯罪も多数あります。

発達障害自体が犯罪につながるわけではないのですが、発達障害がある場合、周囲と違った特性や独自の拘りをもつために、対人関係や社会的な関係にトラブルを生じやすく、社会の中で生きにくい面があります。

その「社会の中での生きにくさ」が、さまざまな原因から、犯罪につながってしまうときがあります。

特に、知的な面では障害がなく、知能が高いケースでは、発達障害の特性が見逃されてしまい、刑事裁判でも障害を持っていることが気づかれないことが多いようです。

発達障害についても、その存在がどのような形で犯罪に影響を与えたのかについて、心理士などの協力を得ながら、的確な主張・立証していく必要があります。

また、再犯を防止して、更生していくためには、心理士や社会福祉士などの専門家からのアドバイスを受けて、犯罪以外の方法で、生きにくさをカバーしていく必要があります。

 

3 知的障害の影響

知的障害が犯行に影響を与えていることもあります。

軽度知的障害やボーダーくらいの知能の場合、知的障害があまり目立たないため、気づかれにくい上、善悪の判断はできているとされて、なかなか障害を斟酌してもらえない傾向があります。

しかし、実際は、知的制約からくる生きにくさがあるため、万引きをはじめ、さまざまな形で犯罪として現れます。

必要な福祉的支援につないだり、環境調整を行うなどして、更生のための刑事弁護を目指します。