依存症治療プログラム ~「条件反射制御法」~

1 条件反射制御法とは?

(1)ここでは、薬物依存症の治療法である「条件反射制御法」について、簡単にご説明します。

医学的な詳しい説明は、リンク先である下総精神医療センターのHPに、精神科医平井慎二先生の説明がありますので、そちらをご参照下さい。
ここでは、できるだけ簡単にご説明します。

アパリと連携して、下総精神医療センターの精神科閉鎖病棟を制限住居に保釈をとった場合、受けていただく治療プログラムが、「条件反射制御法」という2か月~3か月の治療プログラムです。(治療期間は、入院する病院によって「基本」としている期間が異なり、その人の状態によっても、少し長くなる場合もあるなど異なります。)
 ちなみに、条件反射制御法自体は、薬物依存症だけでなく、アルコール依存・ギャンブル依存・クレプトマニア(病的窃盗癖)、強迫性障害(強迫神経症)・ストーカー行為なども含めた「依存性」全般に対する治療法です。

 

(2)条件反射制御法の仕組みを、簡単に説明すると、人間には、

① 遺伝子に組み込まれた生来的な機能としての条件反射(例えば、梅干しが口の中に入ると、唾が出る)、

② 生来的に備わったものではないけれど、学習することにより成立する第一信号系条件反射(例えば、梅干しを何度も食べていると、梅干しを見ただけで、唾が出てくるようになる。唾を出そうと思って出しているわけではなく、唾を出さないでおこうと思っても止めることができない)、

③ 言葉を刺激として反応を生じさせる「思考」であり、評価・予測・目標設定・計画・決断などを行う機能である第二信号系条件反射(人間のみが持っている機能。例えば、高血圧になるから、梅干しは食べないでおこうと考えること)の3つの条件反射が備わっています。

 

薬物を身体に取り入れて、快感を得る経験を繰り返していると、そのたびに,②の第一信号系条件反射の機能が強化されていき、条件反射を作ってしまいます。
それは、例えていえば、梅干しを食べ続けていると、梅干しを見ただけで唾が出てくるようになるのと同じです。
これは、梅干しを食べる習慣がある人にだけ作られていく条件反射で、梅干しを食べる習慣がない人、例えば、外国人などの場合は、梅干しを見ても唾は出てきません。

このようにして、特定の快感に強く関連づけられた②の条件反射が形成されてしまうと、それは、それを止めようと考える③の第二信号系条件反射である「思考」よりも強力で優勢であるために、いくら頭で止めようとしても止められないという状態に陥ってしまうのです。
簡単にいえば、「わかっているけど、やめられない」という状態です。

このような行動を「嗜癖行動(しへきこうどう)」というのですが、この嗜癖行動を止めるためには、既にでき上がってしまった②の条件反射を弱める治療をしなくてはなりません。
また、薬物の渇望を感じてしまったときに、実際に使用してしまうことを回避するために、「これから薬物を使わない時間が続くのだ」という新しい条件反射を作り上げていく治療も必要です。

 

(3)治療のための4つのステージ

治療では、

① キーワード・アクション
② 疑似摂取
③ 想像
④ 維持

という4つのステップを踏んでいきます。

① 「キーワード・アクション」は、今まで作り上げてきた「覚せい剤を使うと快感が得られる」という条件反射を中断させるとともに、「これから覚せい剤を使えない時間が続くのだ」という新しい条件反射を身体に覚え込ませるためのステップです。
「私は、今、覚せい剤をやれない。」と言いながら、その人ごとに決めた一定の簡単な動作をします。

これを20分以上の間隔をあけて、1日に何度も何度も繰り返します。
最終的には、10習慣の治療期間中に1000回以上繰り返すのです。
そうするうちに、この動作をすると、覚せい剤をしたい気持ちがおさまり、スッと落ち着くようになります。

 

② キーワード・アクションを200回程度繰り返したところで、「疑似摂取」のステージへと進みます。

疑似摂取は、注射で覚せい剤を使用していた方の場合、株式会社ニプロが製造した疑似注射器(ピストンを引くと、赤い血液のようなものが注射器内に表れる医療用器具です。※詳しい映像は、下総精神医療センターHP、平井医師の説明にある動画を参照して下さい。)を使って行います。

これを使って、腕に打つ真似をしてみたり、実際に、医師に生理食塩水を使って注射をしてもらったりします。

もちろん、疑似注射器の中には覚せい剤は入っていませんから、自分が過去に取っていた薬物を使うときと同じ行動をとっても、身体には「快感」がないという経験がつみ重ねられていきます。

この経験を何百回と繰り返すうちに、今まで覚せい剤を使っていたときと同じ刺激にさらされても、「覚せい剤を使いたい!」という渇望を感じなくなり、薬物を再使用しなくても耐えられる身体状態が作り上げられていくのです。

 

あぶり使用の方だった場合は、ガラスパイプやアルミホイルを使って、食塩や砂糖をあぶる動作で疑似摂取を行います。

大麻や脱法ハーブなどの場合、お茶葉やもぐさなどを使って、疑似摂取を行います。

理論的な仕組みは、疑似注射の場合と全く同じです。

③ 「想像」は、今まで自分が覚せい剤を使ってきたときの状況を(人によって、一定のやり方が決まっているものです)、とても細かく、詳細に思い出してもらって、作文を書いてもらい、それを自分で読んでもらうという治療法です。

例えば、朝起きたとき、目の前にはこんなふうな部屋の様子が見えて、それから右足、左足とおろして、ベッドを出る。そして、ベッド横にある小机の2段目の引き出しの奥に隠してある覚せい剤を取り出して、それを机まで持っていき、そこで、こんなふうに包みを開けて、水と注射器を用意して…という具合です。

あえて、自分自身を、覚せい剤を使っていたときの記憶にさらすことで、その刺激に耐えられる状態を作り上げていきます。

一見すると、何でもないことのように思えるのですが、意外にも、依存症の人はこの治療をとても嫌がります。
私の依頼者の一人は、①②は出来たのですが、③はできませんでした。
「虫がわく」感じがするのだそうです。

 

④ 最後は、維持ステージです。

これまでやってきたキーワード・アクション、疑似摂取、想像摂取を繰り返します。
当初は病院で繰り返していただきますが、退院前や退院後は、自宅などで試してもらいます。
例えば、公衆トイレで覚せい剤を使用していた方には、疑似注射キットを持って帰ってもらい、奥さんが外に待っている状態で、実際に公衆トイレで疑似摂取をしてもらうといった感じです。

病院は、白衣の人に囲まれていて、社会内とは違う特殊の環境ですから、治療が進み、安定した状態になったら、行動半径を入院前の状況に徐々に戻していき、社会内の刺激の中で再使用せずにいられる状態を作り上げていくのです。
それが「維持ステージ」です。

 

以上のような治療法を何百回となく繰り返すことで、覚せい剤を使っていた当時の、覚せい剤に関連する刺激に不意にさらされてしまっても、渇望を感じにくく、再犯せずに耐えられる身体を作り上げていくのです。

このような治療法を行っている精神科医院は、関西では、一般財団法人成研会「汐の宮温泉病院」(大阪府富田林市)、
関東では、独立行政法人国立病院機構「下総精神医療センター」千葉県)です。

 

今回の逮捕・勾留・刑事裁判を機に、「もう二度と同じ過ちは繰り返したくない」、「薬物依存症から立ち直りたい」と考えておられるご本人・ご家族の方々に、ぜひこの治療を受けていただきたいと思います。

 

なお、この治療プログラムの受けた後に、ダルクへの紹介を希望される方々には、アパリから、その方に最適と思われるダルク施設(ダルクの各施設は独立して運営されているため、その施設ごとに個性があります。)や入寮のご紹介をすることができます。

その方の状態によっては、病院から社会へいきなり戻るのではなく、中間的な場所として、しばらくダルクで過ごすことはとても有益な場合があります。是非、ご相談下さい。

 

2 治療プログラムを受けられた方々の実例。

~例えば、こんな事例があります~

(1) 30代男性の場合  累犯で3度目の受刑の事例

かなり時間が経ちましたが、治療体験記を寄せてくれた光さんの事例です。

光さんも覚醒剤依存症のために、累犯の状態に陥り、3回目の刑務所になっていました。
 相談に来たときは、同じことを何度も確かめないと落ち着かないなど、かなり不安定な様子でしたが、立ち直りたいという意欲は非常に高く、治療を目指しました。

起訴直後、保釈請求をして、令状部の段階で保釈が許可されています。
検察官から準抗告が出たため、裁判官面談へ。
かなり細かくこの保釈請求の趣旨や、入院後どんな生活を送るのか等について説明した結果、
検察官の準抗告は棄却され、許可決定を守りきることができました。

光さんの場合は、控訴審の期間も利用して、十分な治療を受け、退院後はしばらく自宅で過ごして、判決後に受刑しまし。
治療意欲の高く、非常に真面目に治療に取り組まれていて、 家族が一丸となって協力したこともあり、心身ともに目に見えて回復したケースでした。

彼は今ではもう受刑から戻ってきて、社会復帰して、奥さんと一緒に元気に暮らしています。

 

(2) 30代男性の場合  執行猶予中の再犯で、再度の執行猶予判決が出た事例

執行猶予中の再犯の事例でしたが、第1回公判前に保釈が認められました。
犯行態様が進んでいなかったこともあってか、検察官の準抗告もなく、すんなり治療を開始することができました。
(このころから、すんなり保釈許可がおりるようになり、検察官の準抗告がない場合も多くなりました)。

病院で薬物依存症の治療とともに、心理士によるカウンセリングを並行して実施したケースです。
これによって、依存原因を特定できるようになりました。

条件反射制御法による治療とカウンセリングの効果が評価され、一審では「再度の執行猶予判決」をいただくことができました。

薬物規制の必要性は認めつつも、他方で、末端の使用者の再犯防止も重要な要請だと考え、治療を評価した一審判決は、画期的な判断で、私はこの一審の裁判官は正しかったと今でも心底から思っています。

しかし、その後、この判決は、控訴審でくつがえされ、上告棄却されました。

結局、このケースは再度の執行猶予判決が出たことが異例で、時間がかかり、事件から受刑開始まで1年4か月ほどあったように思いますが、その間に彼はダルクにも通い、仲間を得て、皆から愛され、信頼されて、人間的に大きく成長しました。

依存症に陥った問題を克服して人間的に成長するには、多少の時間はかかりますが、1,2か月でお手軽にパパっと治ることはないものの、数か月から1年くらいかければ、人間的に大いに成長して、薬物克服が一気に加速すると思います。

  

(3)40代男性の場合  前科が薬物ではなかったケースで、執行猶予中の再犯だったが、執行猶予になった事例

前刑が薬物犯ではなく、過失犯(交通事故)だったケースでは、執行猶予期間中の再犯ではあったものの、再び執行猶予になったケースがあります。

条件反射制御法による治療を受けて、カウンセリングにも取り組み、夫婦で協力して問題を乗り越えていこうという姿勢が評価されたのだと思いますが、裁判中に執行猶予期間を経過したこともあり、裁判官がもう一度、執行猶予判決を出してくれたことがありました。

相談に来たころは、不安定で感情的になりがちだった彼ですが、今では、家族と平穏な生活を送っています。

 

 

 

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