刑の一部執行猶予を見据えて ~シンポジウムに行ってきました~

先日の11月17日の日曜日は、一部執行猶予制度の開始を見据えて、

大阪府の依存症治療拠点機関設置事業の一環として開かれたシンポジウムにシンポジストとして参加してきました。

 

シンポジウムのタイトルは、

「償うだけやない、治すだけやない、自分らしく生きるんや」

~ 刑の一部執行猶予を見据えて ~ です。

 

 

私は、薬物犯として逮捕された依存症の方を治療と社会復帰へつなぐ弁護活動について、

「保釈をとって、治療につなぐ。刑事弁護における回復と社会復帰へつなぐ試み」という演題で、

20分ほどお話をさせていただきました。(ちょっとだけオーバーしてしまいました。スミマセン)。

 

 

 

新制度の法律的な問題点を議論するというよりは、

今現在、依存症治療について、現場の第一線でかかわっている関係者たちが集まって、

それぞれの立場からの活動を発表したシンポジウムでした。

 

タイトルからわかるように、このシンポジウムには、

薬物依存症の真の克服のためには、刑罰だけ科してもダメ、また、治療をするだけでもダメ、

その人らしく生きられるように、生活全体を再建しなければ、薬物依存からの真の回復にはつながらないのだ…という思いが込められています。

これは、現場で実際に活動している人たちの実感だと思います。

 

 

基調講演は、元保護観察官で、日本福祉大学 福祉経営学部 教授の木村隆夫先生。

まだダルクが存在しなかったころ、保護観察官として薬物依存症者に関わった壮絶な体験をもとに、支援のあり方をお話されました。

(ダルクが登場したときは、ジャンヌ・ダルクが登場したと思ったそうです)。

 

木村先生は、薬物依存症者とはいわず、「薬物被害者」と表現されるのですが、

その中でも興味深かったのは、本当に重症の事例にかかわる中で体感された、以下のような言葉でした。

 

①「追い詰めるのではなく、寄り添うことが基本」、

①の言葉は、ご自身が保護観察官として関わっていた対象者が自殺するという体験を通じて。

 

②「教育と援助は、いつか実る日が来る。 -長い目で見る大切さを学んだ―

 

③「丸抱えの苦しさ、寄り添うことの大切さ、切り捨てることの残酷さ、誰かがやらなければ」などの言葉です。

 

 

③の事例では、家族が薬を飲ませようとすると、信じられない、毒を飲ませられる気がするといって、投薬を拒否する薬物依存症者が、木村先生が飲ませる薬なら信用できるというので、

毎朝、出勤前に、5時起きで、10日間、対象者に薬を飲ませるために、自宅まで1時間半の道を通われたのだとか。

10日間くらい過ぎて、やっと安定して、「もう大丈夫です」と自分で薬を飲み始めたのだそうです。

木村先生は、自分がいかなければ、家族が対象者を殺して、無理心中してしまうのではないかと恐れられ、見捨てることの残酷さを感じられたとのことでした。

(この話を聞いて、自分はここまでは出来ないな…と思ってしまいました。

最近40代も半ばになって、身体が持たなくなってきました。

規則正しい生活をしないと、自分自身がもたないと思う今日この頃です)。

 

私は、③までは出来ないのですが、自分がかかわっている事件に照らして、①と②は、そのまま当てはまると感じます。

 

刑罰というものは、なくてはならないものだとは思いますが、

薬物に限らず、犯罪はすべて、

追い詰めて、責め立てるだけではダメで、支援することが基本だということ、

 

それと、これも罪名を限定せず、犯罪全般にいえることだと思うのですが、

「教育と社会的支援の欠落を、刑罰で代替することはできない」ということです。

 

ちょうど、来年2月に、教育と社会的支援の欠落によって発生してしまった犯罪について、

裁判員裁判を行う予定があるのですが、何を弁論でいうべきか、最後のフレーズが決まらずにいました。

 

予定主張では、「教育の欠落を刑罰で代替することはできない」と書いていたのですが、

木村先生の講演を聞いていて、「ああ、このフレーズだ」、

「教育と社会的支援の欠落を刑罰で代替することはできない」だわ、と気づいたのでした。

 

このヒントを得ただけでも、このシンポジウムに出席させていただいた価値はあったというものです。(^o^)

 

たぶん、今までの裁判では、こんな内容は語られてこなかっただろうと思います。

前例がなく、お手本がないので、全部自分で考えて、作り上げていかねばならず、四苦八苦状態なのですが、

心理士さんの力も借りながら、頑張ってみたいと思います。(弁論で語るフレーズは決まりましたしね)。

 

木村先生は、ある程度、枠をはめる必要はあるが、支援を通じて、薬物被害を乗り越えさせねばならないとおっしゃっておられました。

まさに、そのとおりだと思います。

 

 

その後のシンポジウムでは、

①トップバッターが、弁護士で、刑事司法で弁護活動を担当する私。

保釈をとって、治療につなぐ、弁護活動の試みを話させていただきました。

 

②次が、大阪保護観察所、主席保護観察官:田中英治氏、

一部執行猶予制度の仕組みや改正更生保護法、保護観察所が取組む活動について、お話しされました。

 

 

③ 3番目が、大阪府地域生活定着支援センターの相談員:山田真紀子氏です。

山田氏とは、大阪弁護士会で、人権擁護委員会が主催する、司法修習生の選択型研修で講師を担当していただいたのですが、

本当にパワフルで、熱心な活動をされている素敵な方です。

 

 

④ 最後が、当事者として、支援活動に取り組まれているFREEDOM代表の倉田めば氏です。

当事者としての感性を語って下さっていました。

 

一部執行猶予制度がどのように運用されていくのか、まだわかりませんが、

私としては、足りないものばかりを数えて、理想論を語っていてもキリがない、

苦しい現実を前にして、今やれることを、やれるところから、やっていく、

(例えば、まだ家族などの支援者がいて、保釈金や治療費を出せる人から、チャレンジしてやっていく)、

成功例を1例ずつ積み上げていく、

その積み重ねの先に、「こんな成功事例があるなら、自分もチャレンジしてみたい。

周囲の協力を得て、頑張ってみる」という人が出てきて、

少しずつ、治療と支援と回復の輪が広がっていくのだと考えています。

 

このシンポジウムで出会った方々と、再びお会いして、一緒にお仕事が出来る日を楽しみにしています。

 

 

 

 

 

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