精神科医・心理士・支援団体と連携した弁護活動

薬物事件における治療的な取り組み

~保釈をとって、治療につなぐ!~

 

薬物事件において、二度と再犯しないための治療的な取り組みにはいくつかの選択肢があります。

その方の抱えている問題性や個性に応じて、適切な対処法を選んでいきましょう。

 

 

1 薬物は、犯罪である以前に「薬物依存症」という病である

 

薬物依存症は、過去に薬物を使用したことにより、脳の報酬系というところに、快感の回路が出来てしまう病気です。

脳は薬物を快感と感じてさらに欲しがりますが、そのパワーは理性の力を超えるもので、「やめよう」という意思だけでは止められなくなってしまいます。

刑罰の制裁を示されれば、そのときは、「二度と使うまい…」と思うのですが、しばらくすると、渇望に負けて再使用してしまいます。

その結果、刑務所と社会を何度も往復することになるのです。

無限のメビウスの輪から抜け出すには、治療的な対応が必要不可欠です。

 

2 刑の一部執行猶予制度の施行

 

平成28年6月1日から、一部執行猶予制度が施行されて、薬物犯については、初犯だけではなく、受刑が2回目以降の人でも一部執行猶予の対象となることになりました。

一部執行猶予が付く場合は、保護観察に付されます。

 

判決文は、例えば

「被告人を懲役2年4月に処する。

その刑の一部である懲役6月の執行を3年間猶予し、その猶予の期間中、被告人を保護観察に付する」という感じです。

 

しかし、保護観察による尿検査と最初の5回のプログラムの実施(その後は、月1回の維持プログラム)だけで、薬物依存症が治ると考えるのは、甘いというべきでしょう。

保護観察は処罰につながる「監視」ですから、(要するに、「押さえつけているだけ」)、「抑止力」にはなりますが、本当にそれだけで回復できるかは疑問です。

禁煙中の喫煙や、無理なダイエットの反動としてのドカ食いを考えれば、渇望を押さえつけるだけのやり方がどんなに危険かは容易に想像がつくでしょう。

しかも、喫煙やダイエットと違って、薬物は犯罪ですから、スリップは、執行猶予の取り消しや新たな受刑の脅威となって襲いかかってきます。

 

これを避けるためには、なぜその被告人が薬物に依存するのかを解明し、根本的な治療をした上で、

一部執行猶予制度は、治療を継続していくための抑止力として利用するのがよいでしょう。

このような形をとるのであれば、一部執行猶予制度は、刑期が短くなって早く社会復帰できる上、

誘惑のある社会内で治療の継続をサポートしていく手段となり、とても効果的に機能する可能性があります。

 

では、治療のためのいくつかの手法を見ていきましょう。

受け入れ先をみつけるのはなかなか困難ですが、治療法はいくつかあります。

 

2 精神科病院での入院治療 「条件反射制御法」

     ― 精神科医・薬物支援団体との連携のパターン -

 

1つ目は、「条件反射制御法」による入院治療 のパターンです。

入院候補先は、①千葉県の下総精神医療センター、②大阪府の汐の宮温泉病院になります。

 

条件反射制御法以外の治療法を実施する、③別の医療機関もあります。(詳細は、相談時)

 なお、汐の宮温泉病院では、条件反射制御法による治療が主ですが、同時に、認知行動療法の手法も取り入れた治療を行っています。

 

入院治療にあたり、累犯の方や、病院が遠方になって送迎が必要となる方は、

NPO法人アパリと包括的な支援契約を結んでいただきます。

 

NPO法人アパリは、病院から公判への出廷の送迎や、出所後の帰住先(ダルク入寮)を紹介する情状証人となって、

刑事裁判をサポートしてくれます。

 

平成25年ころから連携の取り組みを始め、現在まで続いてきました。

下記の写真や資料は当時のもので、今では古くなりましたが、興味のある方はご覧ください。

 

平成25年1月22日、大阪弁護士会での三者の連携に関する研修会の模様

        平成25年1月22日、大阪弁護士会での薬物研修「保釈をとって治療へつなぐ」の様子

        (左からアパリ尾田氏、汐の宮温泉病院の精神科医中元医師、弁護士西谷)

 

 

 

「刑事弁護情報」第44号掲載

(平成25年8月31日・大阪弁護士会刑事弁護委員会発行)

 

4 具体的な流れ 

典型的な流れをご紹介します。ただし、事案内容によってはこの流れにならない場合もあります。

① 弁護士受任

治療プログラムを受けるには、家族・友人等の支援があることが前提になります。
 保釈時の送迎が必要な場合、又は、出所後のサポートが必要な場合は、アパリとコーディネート契約をしていただきます。

 

② 接見

治療プログラムを受ける場合は、認め事件であることが前提です。
被告人に自分が「薬物依存症」であることの自覚を促し、治療を勧めます。
逮捕された本人は、「刑務所に行かなくてはならなくなった。大変だ」、「このままでは自分の人生はダメになってしまう」「少しでも刑を軽くして、早く出たい」と思っています。
また、本当に止めようとしていたのに止められなかった自分の依存症の重さに愕然としている場合もあります。

その気持ちを確認し、治療を促していきます。

 

③ アパリによる面会

アパリとの契約が必要な場合は、警察暑か、拘置所で1回面会。
アパリと契約し、支援を受ける意思を確認します。

アパリのスタッフが、家族とも周辺の場所で面会して、契約を締結します。

 

④ 保釈請求へ (保釈保証金を準備していただく必要があります)。

・制限住居は、病院の精神科閉鎖病棟
・精神科医師とアパリから「身元引受書」をいただき、治療のための保釈請求であることを裁判所に理解してもらいます。
  

⑤ 保釈後の病院への搬送  遠方の場合、アパリが担当してくれます。

下総精神医療センターの場合は、近畿圏からは遠方となるため、保釈時の送迎のために、アパリによる付添いがあった方がよいと思われます。

また、家族だけに送迎をまかせてしまうと、喧嘩を始めてしまうケースがありますので、その点からも、第三者であるアパリに付き添ってもらう方が安心です

 

⑥ 治療の開始

入院により「条件反射制御法」による治療を開始します。

下総精神医療センターによる入院治療中は、公判出廷以外の外出は認められません。

 

⑦ 一審の裁判・判決

治療の成果や、出所後に「薬物を使用しない生活」を送るための支援体制ができ上げっていることを、
裁判で主張・立証していきます。

ご本人が希望し、かつ、この支援体制があれば長期の保護観察にも耐えられる、

むしろ、保護観察がついている方が、二度と薬物を使わない生活を維持していくのに役立つだろうと判断した場合は、
一部執行猶予の主張につなげていきます。

 

ご本人は、刑事裁判時には、「もう二度と薬物は使いたくない」「まっとうな世界に戻りたい」と真剣に思っているので、ほとんどの方が一部執行猶予の適用を希望されます。

しかし、実際には、一部執行猶予はそんなに簡単にはつけてもらえません。

「止めたい」という思いを、単なる一時的な希望に終わらぜず、長期的に維持して、実現できるように、

刑事裁判の段階から、本人に対して、「何が原因で依存していたのか」、「それを克服するためにはどうすればよいのか」に気付かせ、具体的な回復の道筋を示します。

そして、それを支援する周囲の体制を現実に整えておくことで、出来るだけ判決が軽くなるようにして、早期社会復帰を目指します。

 

 

⑧ 治療期間が短い医療機関では、退院後、ダルクなどの薬物依存症回復支援団体へ行くこともあります。

   

受刑前にダルクに体験入寮し、回復のイメージを持つことが大きな効果を発揮する場合もあります。

 

⑨ 受刑へ 又は、控訴審へ

 

基本的には、一審判決後には、受刑すればよいと思いますが、

 ・ 治療の継続を必要とする併存疾患があるような場合、(例えば、強迫性障害がある等)、

 ・ 出所後のダルク入寮が不可欠な事例で、体験入寮により、回復のイメージを持たせておくべき場合

 

ただし、裁判所が再保釈を認めるかどうかという問題があります。

再保釈が認められた場合は、保釈保証金の積み増しが必要です。

 

⑩アパリと契約している場合は、出所後も支援が受けられます。

アパリとのコーディネート契約により、5年間の支援が受けられます。

支援者がいても、出所後、元いた場所や、実家等へ帰ることが適切でない場合は多くあります。
その場合、ダルク施設への入寮などをあっせんしていただけます。

 

5 臨床心理士によるカウンセリングを活用する方法 

 

自宅で保釈を受けている場合などに非常に有効な方法です。

保釈がどうしても取れない場合は、拘置所まで出張していただくことも出来ます。

 

薬物依存は、要するに、「現実逃避」です。

 

薬物に依存することで、その被告人が何から逃げているのか。

どうして薬物に依存せねばならないのかを、専門の臨床心理士の力を借りて分析していきます。

 

この分析結果は、今後の対策を考える上で、非常に役に立ちます。

私としては、薬物事件は全件、最初に、心理士のカウンセリングを実施すべきだと考えているくらいです。

 

1人の受刑者を1年間受刑させるだけで、250万円くらいのコスト(当然、税金ですが…)がかかっているのです。

当事者や家族の立場から見ても、受刑によって失うものは、はかり知れません。

その後、長い年月にわたり、薬物依存を引きずり続けるか、回復して健康に人生を歩むのか、

その違いの大きさを考えるならば、

刑事裁判にかかってしまった初期の段階で、臨床心理士による原因分析を受けることは、極めて費用対効果の高い対策といえるでしょう。

 

ちなみに、カウンセリングの実施と書面作成費用を合わせても、10万円程度の費用で実施できます。

 

ただし、症状が重く、覚せい剤精神病を発症してしまっている場合や、知的障害等が併存している場合には適していません。
要するに、内面を言葉にすることが出来ない場合は、向いていないのです。

 

6 ダルク施設へ入寮する方法

 

すべての人について、医療機関による治療が必要なわけではありません。

依存原因や経緯、環境やその被告人の性格などから、

医療機関での治療よりも、直接ダルクへ入寮してしまう方が、回復のイメージが持てて、効果的な場合もあります。

 

医師など、上の立場の人からの「治療」よりも、自分と同じように薬物依存だった人が、回復して少し先を歩いている姿は、励みになり、勇気づけられるものです。

さらに、今まで、周囲に嘘をつき続けてきた人が、自分の薬物依存や内面の思いを正直に話せる場を得ることで、生活の何事についても嘘をつかなくなり、大きく好転していく場合もあります。

被告人個人の特性をとらえた上で、適切な引受先があるかどうか、(要するに、空きがあるか)、
金銭的工面がつくかどうか等によりますが、大きな選択肢の1つだと思います。

 

7 被告人ごとに特性に応じた対応の必要性

 

結局、治療的対処をする場合に、どの対処法をとるべきかは、被告人ごとにその個性をよく見て、個別的な判断をしていくことが重要です。

かって、薬物犯は「金太郎飴」のように、皆同じととらえられていました。

(例えば、女性の薬物犯は、みんなセックスで薬物を使うとか…。

嘘です。全く違う理由で使用しているケースはいくらでもあります。)

 

現在でも、薬物犯に対する量刑の考え方は、過去の前科の回数や再犯までの期間、所持量などでかなり機械的に決まっています。
しかし、それは、薬物犯となってしまった人たちに何の関心もよせず、その人達を見ようともしない対応の仕方です。

その方法では、薬物使用を止める効果はありません。

薬物依存症から本当に回復させようとするならば、被告人個人の特性を見極めようとする姿勢と力量が必要なのです。

 

本気で回復したいなら、

刑務所なんかではない場所で、本来の自分の人生を生きたいと願うなら、

どの方法を取ればよいのか、一緒に考えていきましょう

 

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