KA阪神がオープン@尼崎 クレプトマニア自助ミーティング

今日は、新しく開設された、クレプトマニアの自助ミーティングであるKA阪神さんのご紹介です。

 

               

 

クレプトマニアの方々の自助ミーティングであるKAについては、従前は、

関西地区は、KA大阪(大阪)、KAひょうご(神戸)、KA平安京(京都)などがあったところ、

このたび阪神地地域でもKAを…ということで、尼崎で、KA阪神が立ち上がったそうです。

 

KA阪神は、KAひょうごへ通っておられたメンバーの方が立ち上げたとのことで、お聞きしたところ、赤城高原ホスピタルの入院経験者ではない方が立ち上げたそうです。

 

クレプトマニアは、物があふれる現代社会の中で、かなり人数が多い病気で、群馬県にある赤城高原ホスピタルが治療機関として最も有名です。

皆、できることなら、赤城高原ホスピタルで治療を受けたいものの、現実には、遠方であったり、経済的に苦しかったりして、全ての方が赤城高原ホスピタルへ入院できるわけではありません。

地元の社会資源を活用しながら、何とか更生する以外にない方もたくさんいます。

 

この点を考えると、さまざまなバックグラウンドをもち、さまざまな回復過程をたどった方たちが、回復支援団体として現れるのは、よい事なのではないかと思います。

 

ミーティングは、クローズドで、毎月第2・第4金曜日、13時30分~15時の開催。

詳細は、「KA阪神」で検索していただき、ホームページでご確認下さい。

 

 

従前からある3つのKAは、KAひょうごが火曜日、KA大阪が土曜日、KA平安京が水曜日ということで、開催日を金曜日にして、曜日をずらすことで、関西地区で出席できるKAの回数を増やしたいとの思いもあるようです。

 

薬物の自助ミーティングであるNAだと、ほぼ毎日、少し足をのばせば参加できる範囲内の場所で、NAミーティングが開催されていますが、

KAはまだまだ開催回数が少ないので、開催曜日が異なるKAが増えるのはいいことだと思います。

 

今週の火曜日は都合が悪くて、KAひょうごに参加できない、残念!というようなときでも、

翌週金曜日に開催されるKA阪神に参加したりすることができるわけですから。

 

薬物については、最近では、治療や支援の受け皿が増えて、保釈も数年前に比べて格段に認められやすくなりました。

この数年で、裁判も変わってきているように思います。

クレプトマニアの方々についても、地元で治療や支援を受けられる環境がもっと広がって、選択肢が増えていけばいいですね。

 

 

よりそい弁護士制度研修での発表@兵庫県弁護士会

先日、3月18日に、兵庫県弁護士会で、第6回よりそい弁護士制度研修の講師として、私が担当した事件を2例発表させていただく機会を得ました。

 

1件目は、ホームページでもご紹介しているチェリーブロッサムさんのケースで、「クレプトマニア(病的窃盗症)により、21年間再犯の連鎖を繰り返した事例」です。

2件目は、先月2月に大阪地裁で裁判員裁判があった「虐待の影響を受けた嘱託殺人事件」のケースを発表させていただきました。

このケースは、殺人罪で起訴され、検察官の求刑は懲役15年でしたが、先月2月に裁判員裁判が行われた結果、嘱託殺人罪が認められ、懲役5年6月、未決算入240日となった事案です。

あまり大きくは取り上げられませんでしたが、嘱託殺人が認められるのは珍しいので、ニュースにもなりました。

 

虐待のケースは、まだ件数が少なく、どんなよりそい活動ができるかまとまっていませんが、若年の被告人も多くいると思います。

このケースの被告人もまだ29歳と比較的若年で、暴力をそのまま引き継いでいる粗暴なタイプではありませんでした。

むしろ、お母さん思いの人なつこい性格で、手先は器用、パソコンや機械操作が得意で、支援次第で更生できる見込みを感じる人でした。

このケースを通じて、虐待のケースの中には、よりそい活動に適している事例も多々あるのではないかと感じたので、事例報告をさせていただきました。

 

まず、1例目の35歳から56歳の現在まで、21年間、再犯の連鎖を繰り返しているクレプトマニアの女性のケースですが、こちらは、ホームページを見ていただければわかるとおり、もはや家庭は崩壊し、家族には被告人を支える力はありませんでした。

かといって、まだ56歳の被告人は、高齢者(65歳以上)には該当せず、知的障害者にも、精神障害者にも該当しません。

理解と支援が得にくい中、「どうすれば、次回の出所時に、公的支援だけで立ち直れるのか」を検討した結果、次回の出所時には、弁護士による「よりそい活動が必要」という結論になったため、その経緯や理由を発表させていただいた次第です。

 

内容をかいつまんでお話すると、

事案の詳細は、ホームページをご覧いただくとして、

チェリーブロッサムさんの今回の出所時は、以下のような問題点がありました。

・本当は、母や娘の住む大阪へ帰りたかったが、大阪には女性用更生保護施設がなかった。

・施設関係者に、「自己の万引きは病気だと思うから、医療機関を受診させてほしい」と、刑務所での面会時から訴えていましたが、働いて、自立することを目的とする更生保護施設では、治療的支援は何もなかった。

・更生保護施設では、消灯時間は午後10時。
消灯後は、電気が全て落ちてしまい、刑務所での生活とほとんど変わらなかった。

・被告人は、出所の2日後に、右手首を骨折して、すぐには働けない状態になった。

ここで、就労による更生のプランから、とりあえず生活保護を受けて、セイフティネットを張るプランに切り替えねばならなかったはずなのに、誰からもそのアドバイスや支援がなかった。

・骨折後、手首に包帯をした状態で、保護観察所へも行っているし、そこには、ハローワークの職員も同席していたが、アドバイスも情報提供もなく、生活保護の話や協力雇用主の話は出なかった。

・働けない被告人は、職業訓練受講給付金が月10万円、3カ月の受講で合計30万円もらえるパソコン教室の受講を選択したが、長期受刑をしていた56歳の被告人にとって、パソコン教室が適切な就労支援の選択だったとはいえない。←誰も深入りせず、放置。

・パソコン教室では、履歴書と職務経歴書を求められたが、受刑歴の長い被告人には何も書けず、真っ白の状態で、強いストレスになり、万引きを誘発する一因となった。

 

チェリーブロッサムさんの孤立には、以下のような原因があるのでないでしょうか。

・そもそも長期出所者に対する支援が不十分。

  • 総合的なコーディネーターがおらず、支援がぶつ切り状態で、各機関が自分の都合でしか考えない。どうしたらいいかというアドバイスはしない。 その結果、被告人に合った継続的な支援プランが提示されていない。
  • 本当は大阪に帰りたいのに、大阪に更生保護施設がないため、京都に帰ってきてしまったことも失敗だったのでは?

→ 協力雇用主などの情報が得られない。移動の交通費がかかるといった負担増へつながった。

本人だけの自己責任とせずに、事前に更生プランを作成しておくことが必要なのではないか。

 

その解決策の1つとして、弁護士が総合的なコーディネーター役になる「よりそい活動」が考えられます。

① まずは、その人の事情を前提とした、総合的なプランの提示です。

クレプトマニアの場合は、そもそも、仮釈放の時点から、就労一本やりではなく、医療機関への通院や、KAへの参加を取り込んだプランを構築すべきです。

その上で、長期受刑者の場合、よほど生活能力があるケースでない限り、まずは生活保護申請をして、セイフティーネットを張った上で、医療やKAに通わせながら、協力雇用主を探すべきではないかと思います。

② 就労支援についても、もっとアドバイスや支援が必要です。

本人には、強い引け目があるので、自分の前科(万引き)の話はできません。
履歴書や職務経歴書には何も書けません。

出所直後から、高い社会的スキルを要求されると、それだけでストレスでつぶれてしまいます。
事情を知った上で雇用してもらい、医療機関やKAに通う日には休みをもらえるようにするためにも、協力雇用主がどうしても必要ではないかと思います。

 

③ 出所後の事情に応じて、臨機応変なプラン変更にも対応しなければなりません。

チェリーブロッサムさんのケースでは、右手首を骨折して時点で、就労による社会復帰プランから、生活保護申請の方向へプランを変更すべきだったと思います。

 

総合コーディネーターの役割は、絶対に弁護士でないといけないということはありませんが、弁護士が一役を担うというのは、ありだと思います。

特に、刑事事件を担当した弁護人は、被告人の事情をよく知っているので、よりそい活動に適している場合もあるでしょう。

研修では、チェリーブロッサムさんの成育歴や、過去の万引きのエピソード、家族の苦労なども交えながら、報告させていただきました。

 

弁護士以外にも、社会福祉士さんとか、就労支援事業機構の方とか、刑務所のカウンセラーさんとか、地域生活定着支援の方とか、保険福祉センターの方とか、多数の支援機関の方々が参加しておられたため、共感的に聞いていただくことができ、とても深く理解していただけたように思います。

 

2件目の嘱託殺人の事案は、阿倍野のマンションから白骨が出た事件です。

このケースの被告人については、報道では「嘱託」のことだけしか取り上げられていませんでしたが、実は、犯行の背景に虐待の影響があったことを主張しており、子ども家庭センターや少年刑務所で長年スーパーバイザーをされたいた大学教授による情状鑑定も行われていました。

被告人は、虐待家庭で育った子どもだったのです。

 

被告人は、お母さんがお父さんから激しい暴力を受ける様子を見て育ち、母親を助けたいという思いを持ちながら育ちました。

お母さんを救いたいという思いは、成長する中で、無意識的に、恋人の願いを叶えて救いたいという「救済願望」に置き替えられていきます。

また、虐待により、「お前には価値がない」とされてきたことで、恋人の願いを叶えて救うことで、「必要とされる存在になること」を無意識に求めていました。

 

虐待によって否定された、人間の根源的なニーズを回復しようとする無意識の心理的なメカニズムが、事件の経緯や動機に影響を与えていたケースです。

 

(ただ、虐待された人に関わったことがない人達には、なかなか感覚が理解できないらしく、裁判では本当に苦労しました。

裁判官は多数の事件を処理していますが、あの人たちは直接被告人には接しない人種なので、感覚的にはあまりわからないようです。

裁判員の方々も、様々な職種と社会経験をお持ちの方がおられるとは思いますが、虐待に接したことがある人がいるかと問われれば、NOでしょう。

一見さんに、たった1回の、時間制限のある法廷で理解してもらうことのハードルの高さには、絶望的な気分になるときがあります。

裁判員の方々は、事実認定はとてもよく出来て、法曹の方がハッとさせられることも多いのですが、
量刑や情状となると、一度も見たこともなければ、接した経験もない人達を判断などできるのだろうか?…と疑わずにはいられません。

自分が修習生として、初めて法廷を見たときも、簡単な薬物犯ですら理解していなかったと思うからです)。

 

しかし、嘆いてばかりはいられません。

虐待の影響があるケースでは、刑事裁判の中で、まずは刑事弁護人が虐待の存在に気づき、犯行への影響を主張・立証すべきだと思います。

情状鑑定や臨床心理士のカウンセリングなどを活用すべきでしょう。

 

そこで得た分析結果は貴重です。

刑事裁判を経ることで、本人自身も気づきを得ているので、事件当時よりは自覚があり、裁判後は、周囲へ協力要請などもするとは思いますが、本人だけで、支援関係者に自己の特性とニーズを全て説明させるのは無理ではないかと感じます。

家族から虐待を受けているので、適切な配偶者が出ているなどしない限り、親族の支援がない場合が多いでしょう。

情状鑑定での分析や、刑事裁判で身上などを知っている弁護士が、何らかの形で、よりそい活動をできないかな…と思います。

この嘱託殺人のケースでは、被告人の能力にはばらつきがありましたが、潜在的には高い能力を持っている感じがして、私は、適切なサポートさえ与えれば、おおいに伸びる可能性を感じていました。

ぶつ切りの支援だけではなく、理解や愛情とともに、継続的な支援を与えることができれば、再生・更生していくのではないかと感じています。

 

会場にこられた方達は、支援の専門家の方々で、たくさんの方々が来て下さっており、盛況でした。

共感的に聞いていただけたので、私も勇気づけられました。

今後も出来る限り、こういう場に参加して、支援関係者の方々から刺激を受けていきたいと思います。

 

性犯罪心理カウンセリング ~大阪府の再犯防止モデル事業~

めっきり春めいてきた今日この頃ですが、いかがお過ごしですか。

私は、大きめの裁判員裁判の審理が終わり、判決を待っているところで、ようやく一息ついているところです。

          

 

裁判員裁判の準備や審理があったため、ご紹介が遅れてしまったのですが、

今日は、先日、大阪府の方々が、大阪弁護士会まで出向いて説明をして下さった
「大阪府・再犯防止モデル事業」である「性犯罪心理カウンセリング」のご紹介をしたいと思います。

 

平成28年12月に、「再犯の防止等の推進に関する法律」が成立しました。

現状では、検挙者に占める再犯者の割合は、48.7%とのことで、「再犯者率」が上昇している、

安全で安心して暮らせる社会を実現するためには、「再犯防止対策」が必要不可欠だということで、
同法の4条では、1項で、国については、「再犯の防止に関する施策を総合的に策定・実施する責務があること」、
2項で、地方公共団体については、「再犯の防止等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の実情に応じた施策を策定・実施する責務」が規定されました。
そして、これに応じて、「再犯防止推進計画」が打ち出されました。
これには、5つの基本方針と7つの重点分野が定められているですが、
今回のモデル事業は、この7つの重点分野のうち、④「特性に応じた効果的な指導」に該当するのだそうです。
このように、再犯防止推進法や国の再犯防止推進計画に基づき、国・地方公共団体が連携した効果的な再犯防止対策を講じることが求められているが、モデルとなる事例がない。
そこで、国・地方公共団体の協同による地域における効果的な再犯防止対策のあり方を調査するため、それぞれの地方公共団体が、①地域の実態調査をして、支援策を作成し、②モデル事業を実施して、③事業の効果を検証し、再犯防止計画を充実させていくという取組みを行うことになりました。
そして、大阪府が再犯防止推進モデル事業として、平成31年1月から実施することになったのが、
「性犯罪に関する心理カウンセリング」というわけです。
関係機関として、検察庁や保護観察所とも連携しておられるそうで、弁護士会にも担当者の方が説明に来て下さったのでした。
                     
心理カウンセリングの支援対象となる方は:
① 痴漢(迷惑防止条例6条、又は、他府県の条例が規定する同種行為)、盗撮、公然わいせつ(刑法176条)、児童ポルノ製造などの性犯罪を行った方、
 
② ①の罪により、起訴猶予、罰金・科料、執行猶予の処分を受けた方
  (保護観察付き執行猶予となって、性犯罪処遇プログラムを受けられた方は除く)
 
  ※ 平成30年10月1日から、平成32年9月30日までの間に処分を受けた方を対象とする。
 
③ 大阪府内に居住する方
 
とのことです。(支援終了予定:平成32年12月 ※早期に終了する場合があります。)
カウンセリングは、臨床心理士2名で対応し、1回90分のカウンセリングを原則5回まで、無料で受けることができます。
(あくまで原則ということなので、必要性があれば、柔軟な対応も考えておられるようでした。)
グループワークではなく、完全な個人カウンリングで、本人とカウンセラーだけ、府の職員等は同席したりしないということでした。
カウンセリング後は、必要性があれば、必要な機関に引き継ぐといった対応も考えておられるようでした。(例えば、自立支援課へ引き継ぐなど)。
       
支援までの流れは、
① 関係機関などから、制度について、教示を受ける。(検察庁、弁護士、保護観察所などが考えられます)。
 
② 支援の申込み
  申込先は大阪府/支援申込書兼同意書を提出する
 
③ 申込み受理(大阪府)
  →  届け出内容等の確認(検察庁などに要件を満たす処分を受けているか確認する。)
 
④臨床心理士による心理カウンセリングの実施
 
とのことでした。
 
【問い合わせ・申込先】
 
〒540-8570 大阪市中央区大手前2丁目 大阪府 青少年・地域安全室 治安対策課
 
          TEL: 06-6944-6843(直通)
             (平日午前9時~午後6時まで)
                    
対象になっている痴漢・盗撮・公然わいせつ等の性犯罪は、本人の生きにくさなどと関係しており、本来もっと別の方向で得るべき達成感や充実感などを、性犯罪に該当する行為で得ている「誤った自己治癒行為」の面があるため、本人の生きにくさが続く限り、繰り返しやすい傾向があります。
 
深い心理などは、他人はもちろん、家族にも話すことができず、一人で抱え込みがちです。
この大阪府のモデル事業は、お金のない方でも利用でき、専門の臨床心理士のカウンセリングが受けられる点で、画期的といえるのではないでしょうか。
モデル事業が順調に進み、効果があることが実証できれば、将来、再犯防止施策として、大阪府で実施されたり、他府県でも実施されたりする可能性があります。
悩んでおられる方は、是非利用されてはいかがでしょうか。
このブログでご紹介した内容については、大阪府でチラシを作って、配布していて、ホームぺージにも公開されているのですが、いかんせん、そのページまでたどり着くのが難しい…。
「大阪府 再犯防止モデル事業」で検索
「大阪府/再犯の防止等の推進にかかる法律にかかる取り組み」をクリック
そこに表示された項目のうち、
「地域再犯防止推進モデル事業 (性犯罪者に対する心理カウンセリング)」をクリック
すると、説明文が出ます。色刷りのわかりたすい案内チラシは、
⇒ 案内チラシ (PDFファイル)(WORDファイル)をクリックすると出てきます。
せっかくのモデル事業なので、このブログでも紹介させていただきました。
是非、ご活用下さい。
              

頑張りすぎないで生きる。薬物再犯防止のために…。

昨年、秋から、少しお休みをいただいておりましたが、また、弁護活動を再開することに致しました。

といっても、実は、「休みます!」と宣言しながら、働き続けていた私…。

10月頃にリフレッシュ休暇宣言をして、すぐには休めないだろうと覚悟はしていたものの、12月になっても、まだ働くペースが落ちなかったときには、自分でもびっくり!

完全休業というのは難しいので、働きながら、でも、勉強もし、息抜きもして、というバランスの大切さを改めて感じる今日この頃です。

 

この半年の間には、残念なこともありました。

私が弁護させてもらった2人の薬物事案の男性が、相次いで、判決や出所後、だいたい半年くらいで、薬物を再使用し、逮捕されてしまったことです。

接見に訪れた私を前に、アクリル板越しの一人は、「情けない…」と涙を流し、一人は、悔しそうに唇をかみしめていました。

2人とも、逮捕時は、すぐには観念できず、(あきらめきれなかったのでしょう)、多数の警察官に囲まれた末の逮捕でした。

自分自身への情けなさ、そして、無念の思いは、私にも痛いほど伝わってきました。

 

 

半年で再犯したと聞くと、皆さんは、なんて根性のない奴だ!どうせ最初から、薬物をやめて、社会復帰する気なんてなかったのだろう、などと思われることでしょう。

しかし、実際は、真逆です。

2人とも、超がつく働き者。

人の2倍も、3倍も働いて、社会の中で活躍できる立場に戻ることを切望する人達でした。

 

判決後の不利な状態から、必死で働いて、以前の状態へ回復しようとすると、身体的にも、精神的にも無理がかかり、強いストレスがかかります。

薬物依存症があると、そのストレスや苦痛を、どうしても薬物の作用で振り払いたくなるため、頑張れば頑張るほど再犯を誘発してしまうという、皮肉な結末を招いてしまうのです。

 

このような傾向は、女性よりも、仕事で自己実現したいという思いが強い男性に多く、

特に、能力が高くて、向上心の強い男性や、薬物依存に陥る前に、実際に社会で活躍していた経験を持つ男性に強いような気がします。

 

 

現代は、「今より多く」、「他人より多く」を求め、それに成功した人が勝者だとされる「欲望社会」、「経済最優先社会」、「競争社会」です。

欲望と競争が全面肯定される社会の中で、自己実現を求めて頑張る薬物依存症者が、何度も何度も倒れていく姿に、私は、現代社会の歪みのようなものを感じます。

 

彼らに言いたい言葉は、「頑張りすぎるな」、「頑張ったら、負けだ」、

「欲望を捨て、常に穏やかな心で、ささやかに生きることに満足できる心境を目指せ」、

「最初は、名もない雑草のように。道端に咲く花のように…」。

「将来、頑張れるときは来るだろうが、それは、薬物を使用しないで、(数年くらい?)安定して暮らせるようになってからだ」。

「それまでは、頑張るな。現代社会が肯定する欲望を捨てよ」、ということです。

 

薬物依存症者として現代社会を生き抜くことは、ある意味、新しい価値観を生きることへの挑戦ですらあるのではないか。

 

 

男性であるがゆえに、懸命に働いて、自己実現しようとした二人の再逮捕を前に、思いを書いてみました。

治療的司法のウェクスラ―教授 from プエルトリコ大学

2017年9月1日(金曜日)は、東京出張。渋谷の國學院大學へ行ってきました。

東京は、猛暑が続いていた大阪に比べて、涼しい感じ。

 

第2回犯罪学合同大会・公開シンポジウムでしたが、5つの学会が集まっていたらしく、かなり広い会場がびっしり埋まるほどの盛況ぶりでした。

300人~400人くらい?もっといたのでしょうか?

座る席がないほどで、1時前に会場に入った私は、関係者席の真後ろに座りました。

関係者はいつもご一緒している方々ですし、その周辺にも、日弁連の人権大会や何かのシンポジウムなど、どこかでお見かけした顔ぶれが多くいらっしゃいました。

 

  

【司会の後藤弘子先生】          【ATA-net代表 石塚伸一先生】

【法務省矯正局から富山聡氏】

 

最初に、法務省矯正局から、富山聡氏の祝辞があり、その中には、「刑事施設内処遇はそれだけでは無力であり、施設外での各種機関との連携する必要がある」という言葉が…。

まさに、そのとおりですね。

 

そして、なんといっても、今回の目玉は、基調講演の「治療法学からの日本への提言」。

プエルトリコ大学から、治療的司法の権威であるデビッド・B・ウェクスラー教授が来日されて、講演して下さいました。

ウェクスラー教授は、プラハでも、日本の治療的司法チームのワークショップを見に下さっていたのですが、今回は来日して、治療的司法の考え方のエッセンスを語って下さったわけです。

 

   

【プエルトリコ大学のウェイクスラー教授】

 

初めてその考え方を通して聞いたのですが、印象に残ったエッセンス的な言葉を書き留めてみました。

(私は英語はわからず、通訳さんの言葉を聞きながら、メモを取っていただけなので、正確ではないかもしれせん。ちなみに、会場の方々は学者系の方が多いのか、英語でそのまま理解している人が多い印象でした。)。

 

まず、TJ(治療的司法)は、単なる書かれた法、単なる知識の集まりではなく、法の適用、運用論だそうです。

法改正が有用なことはあるものの、法そのものを変えずに運用の向上を図ることが出来ることを強調しておられました。

重要なのは、裁判それ自体ではなく、むしろもっと初期の段階(ダイバージョン、保釈、司法調停、刑事和解等)や、判決後の段階(判決言渡し、仮釈放等)。

さらに、裁判においては、必ずしも拘禁刑を言い渡す必要はなく、刑の宣告を延期出来る。(その間に、治療や調整を試みる)。

例えば、パラノイアに罹患した患者が、服薬が出来ていなかったために、銃の不法所持で逮捕された事例では、有罪を認めていることを条件に、刑の宣告が相当期間猶予された。

裁判官は、判決時に、本人が協力的態度であることを賞賛し、すべては制御されているようだと述べて、保護観察を言い渡した。

 

そこでは、自己決定と、長所の強化、行為者ではなく、行為そのものを非難することが重要視されておいる。

裁判官は、裁判にあたり、また、判決を言い渡すにあたって、配慮ある言葉遣いを心がけねばならず、巧みで、ニュアンスある言葉を使用する必要がある。

(これ、納得です。私も、自分では結構得意なつもり。情状弁護が本当に得意な人は、接見や打合せの際にこのスキルを無意識のうちに駆使していると思います。

今まで、このスキルには「才能」が必要だと思っていましたが、ウェイクスラー教授の話を聞いていると、「そうすることが当たり前だ」という風潮が出来あがってしまって、皆が気をつけるようになると、特に才能がない人でも出来るんじゃないかな…という気がしてきました)。

 

さらに、ウェイクスラー教授が繰り返し強調していたのは、「判決そのものの内容よりも、判決がいかにして言い渡されるかの方が重要だ」ということでした。

 

 

「一方的」であるより、「相互的」と思わせるような言葉遣い、コミュニケーションが重要である。

加害者が、条件について、声を発することが出来れば、裁判官は、再犯を予防し、リスクを回避していることになる。

 

TJは、ありとあらゆる犯罪に適用できると考えている。

それは、単に、被告人に対して、軽く、優しく対応するというのではなくて、もっとその声を取り上げるということなのである。

 

大規模な法改正ではなく、小さな修正を繰り返していくことで達成できる、

というようなことを話しておられました。

 

面白かったのは、

・保護観察が成功裏に終了したときは、公式に認証して、褒めたたえよ。

・行為は非難してもよいが、行為者を非難してはダメ。

裁判官は、事を悪化させるようなことは一切すべきではない。

・裁判官は、何であれ、良好な部分、良い性格についてコメントすべき。特にそれが刑の軽減に役立つ場合には。

・仮に、良好な部分が量刑に影響しない場合であっても、良い部分に言及することは、有益な種を蒔くことになる可能性があるから推奨される。

・そして、このようなTJ実務の裁判での活用は、裁判官の職業上の満足感にも貢献する、

というような考え方でした。

 

私は、修習生のとき、刑事裁判の修習で、判決文の起案について、
指導いただいた部長から、量刑理由を書くときは、まずは悪情状を先にもってきてあげつらね、
(それが被告人を処罰する理由だから)、

それから、ほんのちょろっと善情状を書く、
(善情状を書かないつもりはないけれど、犯罪を犯している認め事件では、善情状などさして存在しないという無意識の前提があったような気はします)、

と習ったような記憶なのですが、

 

ところが、TJの考え方は、全然、真逆!

被告人の良き点、(裁判中の治療など)良好に進行している点をおおいに褒めたたえよ!!

悪い点については、行為の悪は指摘してもよいが、行為者の悪は指摘しなくていい、

そんなことをしても良い結果にはつながらないのだから、余計なことは言わなくていい!!!

裁判官たる者、事態を悪化させるようなことは一切すべきではない!!!!

という感じでしょうか。

 

裁判官は、自分が使う言葉に配慮し、微妙なニュアンスある言葉を駆使出来ねばならないことを強調しているのも非常に興味深い点です。

そうなのです。

言葉は生き物!

配慮とニュアンスを含んだ言葉が、人を向上させ、状況をよくする秘訣なのです。

 

というわけで、現在の日本の刑事裁判とは大いに異なる治療的司法の権威の話は、実に興味深かったのでありました。

 

その後は、日本の治療的司法の現状について、パネリストの指宿信先生(成城大学)、中村正先生(立命館大学)、藤本哲也先生(矯正協会)、松本俊彦先生(精神科医)、水藤昌彦先生(山口県立大学)から、お話がありました。

   

【指宿信先生】                 【中村正先生】

 

   

【矯正協会 藤本哲也先生】         【精神科医 松本俊彦先生】

 

【水藤昌彦先生】

 

今回のシンポジウムの入場者数を思うと、日本でもこの動きはまだ地表に出ていないだけで、今後、おおいに拡大していくのではないかという思いを強くした大会でありました。

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