「認知症勉強会」@大阪弁護士会 池田学教授をお迎えして

先日、大阪弁護士会館で、認知症研修を実施するための少人数での「認知症勉強会」を開催しました。

講師には、なんと、大阪大学大学院・医学系研究科・精神医学教室の池田学教授を講師にお迎えすることができました。

 

池田教授のご専門は、老年精神医学、神経心理学で、熊本大学在任時代は、いわゆる「熊本モデル」という認知症診療体制を構築された、認知症分野の第一人者です。

 

 

 

 

 

 

 

池田教授にたどりついたきっかけは、今年4月に、神戸地裁で、前頭側頭型認知症の方の万引き事案について再度の執行猶予判決をいただいたことでした。

新聞にも掲載されたのですが、りんごやおまんじゅうなど食品5点、金額にしてわずか800円の万引き事例です。

執行猶予中の再犯(前判決後、約10か月後の犯行)でした。

 

その方は、ご夫婦ともに働き者で、若い頃から、懸命に働いてこられた方でした。

事件当時も、夫婦そろって働いており、お金には全く困っておらず、800円の商品を万引きするなんて、どうしても信じられませんでした。

その方のこれまでの生き方や人生に全く合わないのです。

 

前刑で、執行猶予判決を受けた後は、二度と再犯しないように、

カバンを持って買い物に行かない、財布だけ持っていく、

一人でスーパーには行かない、買い物は対面式の商店街でする、などなど、

約束事を決めて、夫婦で対策を立て、ご主人も協力しながら、きちんと守っていました。

 

なのに、なぜか、その日は、スーパーではなく、他の場所を目指して歩いていたとき、

途中で、毎朝作る野菜ジュースにいれるリンゴがなかったことを思い出し、リンゴを1個だけ買いたいな…とふっと気がそれて、スーパーに入ってしまったのです。

そして、まっすぐリンゴ売り場に行き、リンゴを手に取ったあと、いいな…と思ったお菓子など、食品5点、わずか800円の品を持って、そのまま店の外に出てしまったのでした。

カバンは持っていっていませんから、洋服のジャンバーのポケットに、大きな丸いリンゴなどを入れて、お菓子もポケットに突っこんで、そのままスーパーを出てきてしまったのです。

どうして万引きしてしまったのか、本人にも家族にもさっぱりわからないという状態でした

 

(「え?」という感じがするでしょう?。

しかし、皆さんには信じられないと思いますが、こんな人は結構たくさんいるのです。

そして、裁判では、「情が悪い。」「反省していない。」と言われ、実刑になっているのです)。

 

家族は、いくら何でもこれはおかしいと病気を疑い、私のところへ来られました。

私は、前頭側頭型認知症であることを疑い、その後、さまざまな困難がありましたが、

最終的に、裁判では、再度の執行猶予判決をいただいて、刑務所に送られることは回避できたのでした。

 

この方を救うことが出来たのは、とても嬉しいことでした。

しかし、この1件だけで成果を上げても、他の方々を救うことはできません。

実は、こんなふうに、前頭側頭型認知症の症状のせいで万引きをしてしまったのに、それに気づかれないまま、刑務所に送られているであろう人たちが多数いるであろうことは、弁護士の肌感覚でわかっていました。

刑務所には認知症が疑われる受刑者が多数いるのです。

 

その人達を何とか救いたい。

そのためには、認知症を判別して下さる医師との連携がどうしても必要です。

 

私は、最初、各都道府県や政令指定都市で、認知症疾患医療センターとして、拠点施設に定められている医療機関をあたろうか…と考えました。

大阪区域では、大阪府で6つ、大阪市で3つ、堺市で2つの医療機関が、認知症疾患医療センターに定められています。

そこで、偶然お知り合いだった、大阪精神科診療所協会の医師の先生に、「認知症の刑事弁護のための体制を作りたいのだけど、これらの医療機関をあたってみればいいでしょうか?」とお聞きしたところ、「いやいや、それより、大阪大学大学院に、今年から赴任された、池田学教授という方がおられるから、そこへ行きなさい」と言われたのです。

 

 

そして、大阪弁護士会の刑事弁護委員会の会議にかけ、研修を企画して、その講師として池田教授に来ていただけないかと、突撃のご依頼をして、この勉強会が実施されることになったのでした。

(ちなみに、池田先生は、「DSM-5を読み解く 5」(神経認知症群、…)というDSM-5の解説書の編集担当などもされているのです。

自分が裁判のときに、準備のために買って使った本に、池田先生のお名前が入っているのを発見して、びっくりしました。(^-^)

 

池田教授は、中公新書から、「認知症 専門医が語る診断・治療・ケア」という本を出しておられます。

専門書と一般書の中間くらいのレベルで、分かりやすく書いてあり、初めて弁護士が認知症を知るにはとてもいい本です。

その本もあらかじめ読んでいきました。

しかし、やはり、池田先生の講義を生で受けるのとは大違い!

池田先生は、認知症の原因となる脳の部位から、症状から、昨今、大問題になっている道路交通法の改正が引き起こすであろう混乱まで、わかりやすく抗議して下さいました。

 

講義を聴きながら、「私って、本当に、最高の先生をつかまえて、大阪弁護士会まで連れてきてたんだー」と改めて思いましたね。(笑)。

 

     

 

認知症研修会は、第1回は、「認知症の原因や症状」に焦点をあて、刑事事件を扱う弁護士だけでなく、民事事件を扱う弁護士たちからも好評を博するような研修を目指したいと思います。

来年1月24日に、大阪弁護士会で実施する予定です。

 

第2回目の研修は、まだ日程は未定なのですが、アルツハイマー型認知症と前頭側頭型認知症の刑事事件に的を絞って、弁護実践の研修をやる予定です。

この中で、弁護士と医師の連携体制を構築できれば…と考えています。

 

超高齢化社会を迎え、爆発的に高齢者が増えている現在、認知症対策は、緊急の課題です。

認知症患者の方々は、若い頃は真面目に働いてきた方々が多く、人生の最後になって、病気の症状に気づかれず、刑務所に送られることには耐えがたいものがあります。

 

裁判官たちも、認知症とわかりさえすれば、刑罰を科さないことに異議はないはずです。

そのためには、弁護士が認知症に気づいて、裁判で防御していく弁護態勢をととのえなければなりません。

 

大阪弁護士会の仲間たちと頑張ってみますね。

また、その経過については、ブログでご報告したいと思います。

 

 

 

 

 

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