クレプトマニアで21年間の受刑生活 ~公的支援で立ち直れ PART2~

クレプトマニアで21年間の受刑生活
~ 公的支援で立ち直れ PART2 ~

チェリーブロッサムさんの春の夜の夢の物語 パート2 

パート2では、クレプトマニア(窃盗症)のため、万引きの再犯から抜けられず、受刑開始から21年間、受刑回数は7回という人が「今ある公的支援」を使って、立ち直りを目指す具体的な方法について、述べていきます。

なお、この記事は、裁判時点(平成30年12月時点)での、大阪での状況を前提にしたものですので、地域によって事情が違ったり、時間の経過とともに事情が変わっていくことをご了承下さい。

 

まず、出所後の再犯防止のためには、やはり何と言っても、「仮釈放」が認められ、保護観察がついている方が、さまざまな点で有利だと思われます。

チェリーブロッサムさんが本当に戻りたい場所である大阪の生活保護課、保護観察所、ハローワークに電話したり、面談に行ったりして、聞いて回りました。

                  

◆ 仮釈放が認められた場合

① 仮釈放の身元引受先を、大阪市で生活保護を受けている母親宅とします。

母親が了承していれば、仮釈放の点からも、生活保護受給の観点からも可能です。

事前にケースワーカーに事情を話しておきます。

② 仮釈放後、ただちに、弁護士と母親の同行のもと、生活保護申請をします。

同居か、別居かについては、原則は同居ですが、クレプトマニア発症の経緯に母親の養育態度が関わっているとか、再犯をくり返してきたため、母親側にも精神的負担がかかっている、高齢の母親では負担に絶えられない等の事情があれば、別居は可能です。

具体的には、ケースワーカーと相談しながら対応するのがよいと思われます。

 

今回の事件では、チェリーブロッサムさんは、本当は大阪に帰りたかったのですが、更生保護施設がなかったために、まず京都に行き、そこから大阪へ帰ろうとしました。

その結果、家を探すのにも往復の交通費がかかってしまい、協力雇用主を探すことも出来ませんでした。(大阪の協力雇用主の情報は、大阪にしかなく、京都では紹介してもらえないそうです)。

その失敗を繰り返さないために、チェリーブロッサムさんのケースでは、チェリーブロッサムさんが希望する帰住先へストレートに帰った方がいいという判断をしました。

本当は、各都道府県に最低1つは、女性用の更生保護施設があるべきではないかと思います。

 

③ 受刑中から希望を出して、保護観察所に登録している「協力雇用主」を探します。

協力雇用主というのは、前科・前歴を知った上で、出所者を雇用してくれる雇用主のことです。 

大阪での協力雇用主の探し方についても、保護観察所から教えてもらいました。

仮釈放対象者について、本人が希望し、かつ、刑務所が適切と認めれば、刑務所から大阪保護観察所に連絡が入り、保護観察所から、委託を受けている「大阪府就労支援事業者機構」に依頼が入ります。

大阪府就労支援事業者機構には、専門の相談員がいて、刑務所に面会に行き、ケースによっては、協力雇用主が面談に行ってくれることもあるそうです。

出所後は、ハローワークを介して、協力雇用主に雇用されて就労します。

仮に、受刑中に協力雇用主が見つからなかった場合でも、上記事業の対象者となっていれば、仮釈放後も、引き続き、大阪府就労支援事業者機構が対応していただけるとのことです。

仮釈放は認められたが、上記就労事業の対象者にならなかった場合でも、仮釈放後、保護観察所を通じて、ハローワークに連絡してもらえば、出所者専用窓口を通じて、協力雇用主を紹介してもらえます。

 

④ 長期受刑により社会的スキルが落ちているため、生活保護を受給しながら、協力雇用主のもとで、ストレスがかかりすぎない範囲で稼働して、収入申告しつつ、社会適応のための助走期間をとります。

 

⑤ 医療については、「クレプトマニア(病的窃盗症)」のため、特別の治療の必要性があることを説明して、地元の専門病院へ通院させてもらえるよう申請します。

少し遠方で、交通費がかかるものの、近くに専門医療機関がなく、遠方の病院へ通う必要性が認められれば、通院は可能です。

必要な場合は、入院して、専門治療プログラムを受けられればと思います。

⑥ 通院をしながら、KA(クレプトマニア・アノニマス/クレプトマニアの自助グループミーティング)に通い、KAへの参加を優先する形で働きます。

)これは薬物依存症の方でも同様なのですが、クレプトマニア(病的窃盗症)の方が、就労の方を優先してしまい、自助グループ(KA)に通わなくなると、過労や慣れない就労環境での精神的ストレスから、万引き衝動が出てしまうためです。

KAは、大阪KAを中心に、必要なら、交通費を捻出できる範囲内で、神戸KAや京都KAを利用することも検討します。

 

⑦ 通院、KAミーティングへの参加、就労のバランスをとって、万引きしないでいられる期間を安定して継続させます。

完全に安定したら、生活保護を終了させてもよいですが、通院(医療費)など、長期的な支援が必要な場合は、収入申告の上、基準額に足りない分や、医療費だけ生活保護を受けるなど、適切な支援のあり方についてケースワーカーと相談した方がいいと思います。

チェリーブロッサムさんは、現在、56歳と高齢で、次に出所してくると、60歳前の年齢ですから、生活保護の廃止については、慎重にした方がいいと思われます。

                      

◆ 満期出所となってしまった場合

満期出所になってしまったとしても、本人が悪いとは限りません。

他人からの攻撃で、懲罰に巻き込まれてしまうこともありますし、クレプトマニアの方の場合は、摂食障害を伴っていることも多く、食べ物関係で懲罰を受けることもあるようです。

 

① たとえ満期出所となったとしても、大阪市で生活保護を受けている母親宅へ戻る点は同じです。

② 弁護士と母親の同行のもと、生活保護申請をします。

最終的には、別居する方向で、ケースワーカーと相談しながら対応するのがよいだろうと考えています。

③ 就労については、

(1)チェリーブロッサムさんが、自己の前歴を開示して、事情を知った協力雇用主の元で働くことを希望する場合は、満期釈放で、かつ、生活保護を受けていたとしても、保護観察所の窓口を訪れて、就労支援についてのみ「更生緊急保護」を受けて、協力雇用主制度を利用することは可能とのことです。

(2)また、前科・前歴を知った上での雇用主に拘らなければ、

㋐ 生活保護受給者のための就労支援があり、区役所内にハローワークの職員が出張していることも多いため、それを利用したり、

㋑ ハローワークの一般窓口を利用することも可能です。

いずれの窓口を利用する場合であっても、過労やストレスを避けて、最初は短時間で、かつ、高い社会的スキルが要求されない職種を選んで、就職先を探します。

過労やストレスは万引き再犯の引き金になるためです。

長期受刑で、社会に適応するスキルは大きく落ちていますから、最初は、高い社会的スキルを求められない仕事に就いた方が安全でしょう。

その上で、周囲の人に事情を知ってもらっていた方が様々な点で対応してもらいやすいため、協力雇用主が見つけられるのであれば、全く事情を知らない人のもとで働くよりもいいように思います。

 

④ 医療について、必要性を説明して、専門医療機関への入通院を申請することは、仮釈放がついた場合と同じです。

⑤ その後の生活について、通院と自助グループ(KA)への参加を優先しながら、就労を継続し、収入申告すること、その上で、適切な限度で生活保護による支援(特に、医療保護)を受けて、再犯しない安定した生活を維持することも、仮釈放が認められた場合と同様です。

        

◆ 生活保護課の方にお話をうかがいました。

出所後、生活保護申請をする間、いったん母親の元へ戻って、その後、別世帯として生活保護を受給しながら、就労する、

KAに通いつつい、医療を受けて、自立を目指すという弁護士さんが述べている方法は、現行制度上可能といえます。

ただし、いったん母親宅へ戻ることについては、母親が了承していることが必要なので、生活保護申請時に、弁護士だけでなく、母親も同行して下さい。

また、社会資源が必要なため、就労に協力してくれる協力雇用主などの支援者がいてくれれば、実現可能だと思います。

大阪の専門病院で、専門医療を受けることは、必要性が認められれば可能です。

KAなどの自助グループに参加し、就労して収入申告しながら、医療を受けて、自立を目指していくことは、現行制度上どれも別段問題はなく、可能であるといえます。

出所時に、私が担当者であるかどうかはわかりませんが、今日このようなお電話があったことは、記録に残しておきます。

               

◆大阪保護観察所の就労支援担当の保護観察官からも、お話をうかがいました。

仮釈放については、生活保護を受給している母親宅を帰住先にすることは可能です。

その場合は、身元引受をしている母親の同意を確認し、ケースワーカーさんに事前に話して了解を得ておくように伝えます。

その後の対応は、自治体によって多少異なる面があります。

生活保護上は、原則は同居になるのだろうと思いますが、事情により、途中で、母親と別世帯として生活保護を受けることになったとしても、保護観察上の問題が生じておらず、許可をとってもらえば、問題はありません。

 

仮釈放になったときに、協力雇用主制度が利用できるのはその通りです。

その方法については、まず、本人が刑務所内で、更生保護就労支援事業を受けたい旨の希望を出します。

仮釈放対象者であることが前提ですが、刑務所側で、適性など何らかのフィルターはかかっていると思います。

それをパスして、刑務所が就労支援に適すると判断した場合は、大阪へ帰りたい人については、大阪保護観察所に連絡が入ります。

そこで、大阪保護観察所は、更生保護就労支援事業について委託を受けている機関である「大阪府就労支援事業者機構」に依頼を出します。

すると、事業者機構にいる専門相談員が、刑務所まで本人に面会に行ってくれて、ケースによっては、協力雇用主を連れて一緒に面会に行ってくれることもあります。

そこで、雇用が決まれば、出所後、ハローワークを通す形で雇用して働いてもらうという流れになります。

仮に、受刑中に協力雇用主が見つからなくても、この事業に乗っていれば、仮釈放で出所後も、引き続き、就労支援事業者機構が対応してくれます。

大阪に関していえば、協力雇用主を1社も紹介できないケースはほとんどありません。
数社紹介できるのではないかと思います。

 

仮に、刑務所内で、就労支援事業に乗せてもらえなかった場合でも、仮釈放を受けていれば、保護観察所からハローワークに連絡して、刑務所出所者専用窓口で、協力雇用主を探してもらうことが出来ます。

あとは、刑務所内でも、受刑者専用求人などがあります。

条件に合う求人票があって、応募すれば、会社の方が面会に来てくれることもあります。

これも前歴を開示しての就労になるため、被告人の希望に合っている方法の1つです。

 

今回の事件について、チェリーブロッサムさんは、京都の更生保護施設で仮釈放を受けていたが、京都の保護観察所でハローワークの方と面談したときに希望すれば、大阪の協力雇用主を探してもらえたのかとお尋ねですが、京都の保護観察所には、京都の協力雇用主の情報しかないため、大阪で就労したい場合は不可能だと思います。

そういう意味では、弁護士さんがおっしゃるように、最初から本人が帰りたいと思っている帰住地へ帰り、その地の保護観察所やハローワークの窓口に行く方が支援を受けやすいかもしれません。

 

次に、満期釈放となった場合ですが、

満期釈放で、母親宅で生活保護を受給した場合であっても、本人が、前歴を開示した上で、事情を知った雇用主の元で働くことを希望する場合は、保護観察所の窓口を訪れてもらえば、就労支援の面だけについて、更生緊急保護を受けることは可能です。

満期後の更生緊急保護には、他制度がある場合は、そちらが優先するという原則があるため、生活保護受給者に対する就労支援があれば、そちらが優先する関係にありますが、
「前歴を明らかにした上で就労支援をする」というのは、保護課観察所以外の機関ではやっていない制度のため、就労面についてのみ、更生緊急保護を受けて、協力雇用主を探すことは可能です。

                   

◆担当地区のハローワークの職員さんにも、電話でお話をうかがいました。

仮釈放中か、更生緊急保護を受けている方の場合は、保護観察所から連絡があって、協力雇用主制度を使って支援することが出来ます。

更生緊急保護を受けていない場合は、協力雇用主制度が使えないため、一般企業への紹介になります。

ハローワークでしている出所前の支援としては、刑務所内で就労希望があった場合、刑務所所在地を管轄するハローワークの職員が、受刑中に面談して、仕事を紹介するような支援をしていることもあります。

就労したい場所と刑務所の距離にもよりますが、人手が足りない職種などでは、会社の方が刑務所まで面談に行ってくれる時もあります。

相談者の方のように、いきなりフルで働くのは無理ということであれば、パートで、一般求人から探すことになるでしょう。

出所者ではなく、生活保護を受給している人のための就労支援があり、区役所によっては、区役所内に支援担当員が出張していますので、それを活用することができます。

                    

◆ まとめ

今、現実に存在している制度を使って、支援内容を検討すると、現時点では、上記のような感じになるのかな、と思います。

支援制度ですから、どんどん変わっていく可能性はあるでしょう。

特に強く感じたのは、「チェリーブロッサムさん」の個別事情とニーズを把握して、各機関で、横断的に支援を受けていく必要性です。

その時、1つの支援機関だけに頼ると、その機関の負担が重くなりすぎてしまい、嫌がられますが、複数の機関につながっていればいるほど、1つの機関の負担が軽くなり、引き受けてもらいやすくなりそうだと感じました。

例えば、協力雇用主がいてくれて、就労支援をしてくれていれば、生活保護でも嫌がられずにスムーズに支援を受けやすくなります。

きちんと、KA(クレプトマニアの自助グループ)などにも通って、立ち直りを目指して努力していれば、さらに良い印象…という具合です。

本件では、お母さんは既に高齢でしたが、再犯を繰り返す状態にある娘を、全面的に丸抱えしろといわれると困ってしまうけれど、周囲の皆が協力してくれるならば、娘のために、自分の住所を出所時の足がかりとすることには協力しますと言ってくれました。

弁護士である私が、コーディネーターとしての役割を果たさねばなりませんが、チェリーブロッサムさんは必ず更生できる人だと思うので、多数の機関に協力していただきながら、頑張ってみたいと思います。

 

クレプトマニアの方たちが、チェリーブロッサムさんのように、殺人罪を上回るような長期受刑の状態に陥ってしまうことは、現実的に十分ありうることです。

再犯⇒裁判⇒受刑⇒出所⇒再犯という流れを、延々と繰り返し続け、その結果、刑務所の中であきらめながら、ひたすら時が過ぎるのを待って生きるか、それが嫌なら自殺するしかない、という状態になってしまうのです。

長期受刑や再犯による裁判の繰り返しには、当然、コストがかかっているわけですから、結局、それだけの費用をかけねばならなくなるのであれば、発想を転換し、もっと早く社会内で支援して、回復をはかっていく方法を選択する方が合理的なのではないでしょうか。

万引き以外にも反社会性があるなら、長期受刑になっても仕方がありませんが、クレプトマニアの人達は、万引き以外の点では、おとなしい人が多く、反社会性はないのですから、別の対処法を考えるべきだと思います。

 

人生が最後まで希望あるものであることを願って、チェリーブロッサムさんのケースを皆さまにご紹介しました。

               

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